第一章 夢? 2
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1515222.html
宇宙人と言われて、固まった春菜は、「日本人ですが..」と、答えた。
隣の女性、大笑いで、「アハハハ、解ったわよ、からかった私が悪かったわ..」。
逆に春菜は、それがからかわれたとは、思いもしなかった。
そして、再度仕事をこなし始める春菜。
そんな姿を仕事をしながら、何気なく伺う隣の女性。
その女性は、自分のデスクの引き出しを開けて、
一枚の板チョコを取り出して、アクセク仕事をこなしている、春菜の前に差し出した。
春菜は手を止めて、隣の女性の方にゆっくり顔を向けて行った。
隣の女性、「そんなに根詰めて(根を詰めて)仕事すると、
今流行のノイローゼになっちゃうよ!」。
春菜は、急に俯き、「有難うございます。でも一生懸命やら無いと、
直ぐ、『お前の変わりは、幾らでもいるから#』って、言われてしまうから..」。
隣の女性、「そんなに仕事が出来る社員は、この会社ではあなたしか居ないけどね」。
春菜、「へ!」。
その時、周りの女性社員を見回すと、たどたどしく計算機を打っていたり、
少ない領収書なら、そろばんで計算していたりと、
社内は大勢の人々が働いていたが、仕事のペースはそれ程、激しくは無かった。
逆に言うと、たどたどしくてマイペースの様だった。
春菜はその時、手渡された板チョコのパッケージをむいて、一口かじった。
すると春菜、「あれ~、この味微妙に違うかも..」。
そう、40年後の板チョコは、パッケージは同じでも、味が改良されているのだった。
隣の女性、「はぁ~?」、首を傾げた。
春菜の、その微妙な発言に、益々宇宙人に思えた隣の女性だった。
だが、何となく素直でこの時代の人から見ると、幼く見えた春菜に親近感が湧いた。
そして隣の女性は、「あなた、東京で働いていたでしょ?」。
春菜、「へ!、解ります?」。
隣の女性、「東京はせせこましいから、あなたの表情見てると解るのよ、
私もここに来る前は、東京で事務遣っていたから、気持ちは解るわ」。
その言葉に春菜は、俯き加減で、「そうですよね..。誰でもいいのですよね。
事務員なんて余ってるから..」。
隣の女性、「辞めさせられたの?」。
春菜、「派遣だから..」。
隣の女性、「派遣?」。
春菜、「派遣は、都合の良い二次受けだから、会社にとっては..」。
隣の女性、「派遣て、正社員になる前の、会社の研修期間じゃなくて?」。
<作者:この二人はお互いに、時代の感覚が、ずれています。>
春菜、「派遣はどこまで行っても、軽く扱われますから..」。
隣の女性、「はぁ..」。
お互いに、イマイチ理解が出来ないまま、仕事を続ける二人だった。
アクセク働いていたら、学校のチャイムでお馴染みの、あの休憩の時の音が社内に流れた。
春菜はふと顔を上げると、皆背伸びをしたり、デスクから立ち上がり、
社内から出て行く人が居たりと、和やかな社内に包まれていた。
すると、隣の女性のデスクに、同僚らしき女性二人がやって来て、
その一人が、「さて、お昼にしようか」。
もう一人の女性が、「なに食べる?」。
すると座っていた、隣の女性が春菜に、「ねえ、一緒にお昼ご飯食べに行かない?」。
問いかけられると春菜は、「は..はい」。
咄嗟に立ち上がり、「御一緒させて頂きます」と、頭を下げた。
春菜は、この三人に連れられて、会社の外に出ると、
朝来た時の風景とは違い、賑やかで大勢の人が歩き、車も多くレトロだった。
春菜はその時、咄嗟に自分の頬をつねった。
「痛い..」。
(夢から覚めない)と、思った春菜だった。
しかし町並は、春菜が居た時代の同じ場所とは大違いで、
さまざまな人達が、さまざまな格好で歩いていた。
作業服を来ている男性やら、スーツ姿でカバン片手に歩く、髪型が7:3分けの男性。
事務服を着た、厚化粧で付けまつげが長い女性。
リーゼントでサングラスに、皮のジャンパーを着た男性。
もんぺ姿のお婆ちゃんから、腰が曲がったお爺ちゃんやら、
セーラー服姿の女子高生、学帽で学生服を着た、男子学生やら様々だった。
春菜は心が躍った。
こんな賑やかで、町行く人々が皆笑顔。
何だか、楽しいレトロな夢を見ている様だった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




