第三章 レトロな街5
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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そんな訳で、次の日の昼休み、会社の地下倉庫で、
良子があの二人に事情を話すと、
洋子、「この、おたんこなす#!」。
いきなり、春菜の頭をどついた。
春菜、「ごめんなさい」と、下を向いた。
圭子、「洋子、ぶつんじゃないの#。
この時代の、価値観が解らないこの子が、
あのケチな叔父さんから、300万せしめたなんて、上出来でしょ#」。
洋子、「そりゃ~そうだけどね#。携帯電話なんて代物、
国防省か、日本科学研究所に売れば、億万長者よ#」。
良子、「誰に売るかは、春菜の自由でしょ#」。
洋子、「売る前に、私に一言、相談しなさいよ#!。
大損してるでしょ#、も~」。
大喧嘩なる三人に、戸惑う春菜だった。
春菜、「私の時代では、携帯電話の型落なら、タダでくれますから..」。
余計この場で、反感を買う春菜。
特に洋子に。
ム#っとしながら洋子が、「あら そ~なの#!。
この時代では、その発言は、宇宙人よ#」。
良子、「いじめるんじゃないの#!。
だいたい、そんな進んだ機器を、あの場で私達に見せたら、どうなると思うのよ#。
怖がられて春菜は、誰にも相手にされなくなるでしょ#」。
そして、洋子は自省した面持ちで、「そ..そう言われればそうだけど」。
春菜は突然、「皆さんには、ご迷惑お掛けしました。
私、皆さんに奢られてばかりで、ここに来てから、自腹切っていません。
なので、銀行に貯金して奢られた分は、皆さんにお返ししますので」。
そう言って頭を下げて、この場を立ち去ろうとした時、良子が突然、「あんた#、
300万の一割自分が貰って、残りはこの三人に配るつもりでしょ#」。
洋子、「何言ってるのよ良子、逆でしょ?。
それを言うなら、一割私達に配って、残りは自分が貰うつもりでしょ?」。
良子、「この子は未来を知ってるの。
だから、今手元の300万全額、私達に上げても、
これから何が良くなり、何が悪くなるか把握してるから、
どの業界に自分の身を置けば、明るい未来が来るか解るから。
例え、住所不定で身元不明でも、暮らせる自信は有る。
この子が今欲しいのは、私達仲間の信頼関係であり、心の繋がりよ。
春菜、今あんたの思いは、『金なんか欲しければ上げる、でも、
それで私建ちから信用を得て、親しい関係が作れれば、本望だ』。そうでしょ#」。
春菜、立ち止まり、「そうです。私が欲しいのは、信頼できる友達そう..同僚です。
今まで、派遣で働いて来て、自分が会社で生き残れる事だけを願い、生きて来ました。
いつしか、周りの同僚がライバル関係になり、
一緒に楽しく会話していても、いつか嵌められる様な気がしてました。
たった一度の気の緩みから、選手交代されて、もう死のうとまで思いました。
そんな時、この時代に遣って来て、厚い歓迎に心躍りました」。
春菜は涙ながら振り向いて、「たった一日の出来事だけど、
私を慕ってくれた事、感謝します」。
そう言って、歩き出す春菜に、洋子が、「悪かった。私が悪かったから、
そんなに未来は、世知辛いのね..」。
圭子、「その300万、銀行に納めに行こうか」。
良子、「春菜の思い、痛いほど伝わったわよ」。
未来人の語る世の中に、ため息を付く、昭和44年組であった。
お昼も済ませないまま、四人は中川のハンコを作りに、
ハンコ屋へと足を運んだ。
ここは卸本町、何でも有る町。
当時としては、ここが現代で言うなら、大型スーパーの役割を果たしている町。
札束持って、いざ銀行へ..。
春菜は、窓口で風呂敷を解いて、札束をドカっと置いた。
三人に見守られながら。
座っていた係りの、女性の顔が引吊った。
窓口の女性、「口座を作るのですか?」。
春菜、「はい..」。
窓口の女性、「法人ですよね..」。
春菜、「個人です..。書類の通り、普通貯金で」。
この当時、こんな高校生みたいな女の子が、
事務服着て300万もの札束を、窓口に堂々と置いて、
普通貯金で個人の口座を作る人は、まれだったので、窓口の女性は焦ったのだった。
窓口の女性、「は..はい解りました。手続き致しますので、
しばらくお待ち下さい」と、言って、札束を抱えて、男性社員の所に歩いて行った。
しばらくすると、通帳が出来上がって来たのだった。
それを見た三人は、ため息を付いたので有った。
そして定食屋にて。
圭子、「その、携帯電話は、未来では誰でも持って歩いてる訳ね!」。
春菜、「はい、日本人口の7割は持っています」。
三人は、「へ~!」、驚いた。
春菜、「電話機能だけでは無く、カメラ、テレビや電子メールや、電車も乗れるし、
買い物も出来るし、遣ろうと思えば、銀行との遣り取りも出来ます」。
洋子、「流石は宇宙人!」。
良子、「だから、からかうの、よしなさいよ#」。
圭子、「電子メールとは、しゃれているわねぇ~。洋画のスパイ映画そのものね!」。
洋子、「その電子メールって何よ?」。
春菜は、味噌汁をすすりながら、「携帯電話同士で、画面で文字を打って、
書いた文字を相手の携帯電話に、送信する事です」。
圭子、「それは、スパイ映画以上ね~。未来は進んでるわねぇ~」。
良子、「40年後の未来よ!」。
洋子は、キュウリをパリパリ食べながら、「あんたそんな、進化した時代に生まれて、
あんたから言わせれば、不便なこの時代に来て、不満ではないの?」。
春菜、「逆に、大満足です。これから未来は発展して行く中で、
私達は、その工業の糧となり、給料も上がり何より、
まじめに働けば、その評価をしてくれますから..」。
複雑な思いの、昭和44年組だった。
圭子、「創りすぎた結果、人間の思考や想像を超えた物が、ありふれて..、
飽和状態になったのね」。
春菜、「その通りです」。
良子は、お茶を飲みながら、「でも、夢見たいな話ね..」。
圭子は、胃薬を飲みながら、「夢で有りたいわね..。現実味が沸かないけど」。
洋子、「この子の持ってた、未来のお札の透かしや、
細工は、聖徳太子寄りも、繊細で緻密よ!」と、
洋子のスカートのポケットから、福沢諭吉を取り出した。
ちゃっかり、洋子が預かっていた。
春菜、「私はこの夢が、現実で有りたいです」。
これで四人共、次元は超えているが、複雑な思いが、分かち合えたのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。