第三章 レトロな街3
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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二人は畳の床に座り、黙っていたが良子が、「退屈でしょ?、こんな何も無い時代に来て..」。
春菜は、思いに更けていたが、首を横に振り、「うんうん、そんな事ありません。
すごく落ち着きます」。
良子、「未来はよほど、騒がしいのね」。
確かに、この時代と比べれば、40年後は世知辛い世の中ではあった。
生活臭は、この時代の方が落ち着いて感じた。
壁が薄く、隣の生活音なども聞こえて来たが、
皆、穏やかな声で、激笑や激怒を発する様な声は聞こえず、
テレビも個人所有は少なく、ラジオから流れて来る声や、音楽は激しくなく、
春菜は癒されていた。
激しい動きの社会の中で、一頻りあえいだ毎日が、今ここで開放されて行く様だった。
良子、「7時になったら晩御飯食べに、食堂行くわよ。
そこに直子が置いていった、生活道具一式あるから、借りられる物は借りなさい」。
良子はその時、失踪した直子の布団の上に置いてある、大きな皮のバッグを指差した。
春菜は素直に、「はい」と、答えたのであった。
そして夕飯の時間が来た。
二人は、1階の食堂に出向いて行った。
おかずは贅沢では無いが、煮物類や漬物など、2~3品、大皿に盛って有った。
ご飯も味噌汁も、自分でよそう言わば、小さなバイキング形式で、
自分専用の茶碗や箸、湯のみが、ガラス棚にまとめて置かれていた。
ガラス棚の上には、お盆が重ねて置いて有り、皆そのお盆を取って、
棚から自分専用の箸と、茶碗、湯のみを出して、
ご飯と味噌汁をよそって、食卓に着いて食べていた。
良子も二つお盆を取り、一つを春菜に渡して、
ガラス棚から直子の茶碗と箸を出して、春菜に渡し、春菜は軽く頭を下げて、
良子に続き、味噌汁とご飯をよそった。
まさに、街の飯屋の走りの様な光景だった。
おかずは、個人個人小皿に取る訳では無く、家族の様に、大皿から摘んで頬張っていた。
春菜と良子は、食卓に着いて同時に、「いただきま~す!」と、言って、食べ始めた。
春菜も美味しそうに、里芋の煮物を頬張っていた。
すると、一人の寮の女子社員が、「ねぇ春菜ぁ~、この時代の夕飯って質素でしょ?。
春菜の時代は、洋食ばかりなの?」。
春菜、「そう言う人も居ますけど、私今ダイエット中なので..」。
皆、口を揃えて、「ダイエット..?」。
実はこの時代の人は、まだまだ一般市民の食生活に置いて、
高カロリーの食事の摂取は、一部の大金持ちが大半で、
ビーフステーキや、こってりラーメン、増してやハンバーガーなど、
口にした事は無く、ダイエットと言う言葉すら、知っている人は少なかった。
他の寮の女性、「その、ダイエットって、どう言う意味なの」。
春菜、味噌汁をすすりながら、「カロリーを減らす事です..」。
寮の皆さん、更に聞きなれない言葉を、耳にしてしまったので、
皆さん同時に、「カロリー?」。
首も同時に同じ方向に、傾いた。
この時、寮の女性達は同時に、同じ事が頭に浮かんで、「う..宇宙人!」。
春菜、顔が強張って、「私は宇宙人ではありません#!」。
すると皆、大笑いだった。
その時、良子が、「冗談よ、ダイエットってもしかすると、
食べ過ぎなので、食事の摂取量を減らす事でしょ?」。
春菜、「太り過ぎたので、痩せる為に食事の量を減らす事とで、
脂肪分を体内から減らす事です。
私の時代はそれを、メタボリックシンドロームと言って、略してメタボと言っていました。
その前は、デブって言ってたけど..」。
寮の女性、「何でも横文字ね~..、未来は..」。
そんな会話で、夜も更けて行った。
この当時の日本は、寒い。
温暖化など叫ばれていなかったこの時代、
11月の半ばともなれば、遠州地方独特の空っ風が吹き荒れ、
電柱を吹き抜ける風が、ヒューヒュ鳴っていた。
食事を済ませた二人は、良子の部屋に戻る。
良子は部屋の窓際に置かれていた、石油ストーブに火を付けようと、
ストーブの下の台から、マッチを取り火を着けて、ストーブに火をくべた。
石油ストーブ独特の燃える匂いが、部屋に立ち込めると、
春菜はその空間に、心を落ち着かせた。
そして何気なく、フォークソングを口ずさんだ。
良子、「あら、いい曲ね..。」。
春菜、「お母さんがいつも、口ずさんでいた歌です」。
良子はその時、急に切ない顔に変わった。
不思議と春菜も、切ない表情に変わったのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。