第三章、 レトロな街
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1515222.html
春菜は、夢中で仕事をこなしていたら、いつの間にか日が沈んで、外は真っ暗だった。
業務の終わりのチャイムが社内に流れ、隣の席の良子が春菜の肩を叩いた。
良子、「ご苦労さん」。
春菜は我に返ると、目を擦り、周りを見回した。
社員達は、立ち上がり背伸びをしたり、上着を着て帰り支度をしていた。
すると先ほどの、二人の先輩達が、二人のデスクの前に来た。
圭子、「さて、帰りますか..」。
洋子、「帰りますはいいけど、春菜はどうするの?。
まさか、白羽の自宅に帰るなんて言わないよね..」。
春菜、「私の実家は、両親が結婚してから、建てた家なので、今は在りません」。
良子、「直子の布団も、家財道具もそのままだから、寮連れて行くは..」。
圭子、「そうね!それが良いわね。そうして貰いなさいよ!」。
春菜は、申し訳なさそうに、「済みません、そうして頂けますか?、
お願いします」と、頭を下げた。
事が事だけに、春菜に住む宛が無い事は、先輩達は承知していたので、
事はスムーズに進んだ。
当然の成り行きで、当たり前の陳謝だったが、失踪した人の人格が、人格だけに、
先輩達は、かなり春菜が素直で、可愛く見えた。
なので先輩達は、その春菜の態度に、微笑んだのであった。
圭子、「良かったわね、宛が出来て..」。
洋子、「人間やはり、素直なで真っ当な方が得ね..」。
先輩達は、大笑いだった。
四人は帰り支度をして、会社から出ると、
この時代の11月半ばは、寒かった。
冬の事務服ではあったが、薄着なので風が肌をすり抜ける。
春菜は腕を組んで、袖の下の上腕をさすり、「さむ~い..」と、答えた。
この町は海に近く、田んぼのど真ん中に在る町並みなので、
風がこの町を吹き抜けると、より一層寒さが身に沁みるのであった。
ふと春菜は、会社の看板に目をやると、自分が居た時代とは、
会社名が違っていた。
萩原文房具卸株式会社。
春菜が居た時代は、大津事務用品株式会社。
すると、圭子と洋子が、「また明日」、そう言って、手を振って去って言った。
良子はその二人に手を振り、春菜は頭を下げた。
良子、「さてと、会社の裏の駐車場で、バスが待っているから、
それ乗って、寮に帰るわよ」。
そう言って、春菜を連れて、二人は駐車場に向かった。
するとマイクロバスが、待機していた。
後から続々と、女性社員が乗り込んで来た。
運転手が、「全員乗ったかね..」。
尋ねると、皆バスの中を見回し、その一人が、「大丈夫です、乗ってます」と、答えた。
すると、クラクションを一つ、フア~ァンと鳴らし、バスは発車した。
舗装してない駐車場であった為に、発車時バスは左右に、大きく揺れたのであった。
バスは一路、この街の中心街を通るルートで、寮に向かう、
街の中心街を差し掛かると、春菜は驚いた。
( こんなに普段から、人々が賑わっている街を見るのは、何年ぶりだろう!。)
春菜の時代では、すでに郊外型の街であり、
大型スーパーが、郊外に多く出来てしまい、
街は、安さと大規模なスペースを誇る、大手スーパに負けて、
閑散としていたのである。
現代では地方都市は、車社会で街の駐車場は、駐車料金が高い為に、
郊外の大型店の、大型駐車場完備の施設で、何でも済ます様になってしまった。
呑み屋も、飲酒運転の法律改正と、不景気や物価高騰で、
街まで態々、呑みに来る人々も少なくなり、
街に存在していた、娯楽施設も郊外に出て行く傾向で、
レストランなども、駐車場が広く確保出来て、綺麗な店は郊外に出来る。
その影響で街は人々を寄り、遠ざけている。
少子化の影響で若者が減り、その若者に仕事が少なく、若者は夢も希望も抱かなくなると、
楽しい事を期待して、若者は街に出向かなくなる。
春菜もその一人であった。
だがこの時代では、若者ははしゃぎ、その賑わいと人々の笑顔に、心が躍ったのであった。
見た事も無い信号の形から、角ばった車、50ccのカブが、
このバスを囲うように走っていた。
そして今では、昭和の歴史の建造物と化したに過ぎない、
春菜の時代では、再建の見込みがないデパートが、賑わっていた。
昭和44年過ぎ去りし歴史のひと時、夢と希望を抱いて、若者があくせく働き、
時にやんちゃではあったが、いつかそのエネルギーは、日本の柱となり今に至る。
時にツッパリ、言い出した事は曲げないが、弱い者には優しい人々が、多く存在していた。
義理と人情が豊富に沸いていた時代、それを肌で実感していた春菜だった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。