十一月の雲、枯れた葉に秋の風
もし、あなたが耐えようもない絶望を抱えて、死ぬ事を決めたとしても、命より大事なモノが、死んだ先に、消えてしまうと分かっていたら、あなたはそれでも死ぬ選択を出来ますか?
【十一月の雲、枯れた葉に秋の風】
カサっと、歩く度に足元で枯れ葉が音を鳴らす。
ついに吐く息までが、白くなった季節。十一月。
紅葉に彩られ、楓・銀杏なとが風景にアクセントを加えていた。黄色・赤・茶。
新緑の緑が見られなくなり、ただ鮮やかな秋の色が視界いっぱいに広がった。
「ふぅ……」
短い白い吐息が、消える。
山間の中。見るが如く、あるのは彩られた森林と鳥たちの無機質なさえずりだけ。少し肌寒い空気が鼻を赤くさせた。
この山、私の周りには誰もいない……
朝が早いことも関係するのかもしれないが、それだけではない。
この山には入る物好きはいないのだ。
――知っているだろうか?
―― あのお話を
―― 世界が変わらず、ただ流れてゆく、時間だけ。例えるなら、空に浮かぶあの雲みたいに。
時間だけが動き、それ以外は何も動かない、お話。この山には入った者は、見たことも無い世界に彷徨ってしまうと云われるからだ…
それ故に、この山は
「あの世山」
。
この世とあの世を分け隔てる山という意味で付けられた名である。
鬼門と恐れられている山でもあった。
「そんなの、嘘だ」
私、茂木一之は、そんな言い伝えなど、信じられるはずもなかった。
現実主義で、非科学的な存在は一切信じず、世迷い言など以ての外で、完全に拒絶する。
ジャンバーのポケットを探り、一箱のタバコを取り出し、吸い始めた。
「あるわけないだろ、そんなの」
――そうだね。でも、君が知らないだけかもしれない。
――この世なんて、自分の知っている1%にも満たないのだから。
――なぜ君が、この山にきたのか?
――ただの偶然?…違うよ。
――君は出会うよ。
――ここに来てしまったのだから。
――いいかい?必然だよ。……ようこそ、真理へ