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リライト・デッドエンド  作者: 未確定ログ
第1部 欠けた世界編 -観測-
9/56

第九話 個の崩壊

夜は、もう以前の夜ではなかった。


神崎悠真は部屋の中にいるのに、「ここが自分の部屋だ」という確信が薄れている。


壁も、天井も、家具も、形はある。


なのに“所有している感覚”だけが抜け落ちていた。


朝。


結衣はキッチンに立っている。


昨日と同じ位置。


同じ動き。


同じ声。


「おはよう、兄貴」


その言葉を聞いた瞬間、悠真は違和感を覚える。


――“昨日の続き”ではない。


“同じ朝が繰り返されている”。


学校に向かう途中。


街の景色が微妙に違う。


電柱の位置。


信号の形。


歩道の幅。


どれも少しずつズレている。


だが誰も気づいていない。


悠真だけが、毎日“微調整された世界”を見ている。


教室。


玲司が話しかけてくる。


「なあ悠真」


「昨日の話、続きあった気がするんだけどさ」


悠真は反応する。


「何の話だ」


玲司は少し考える。


「……空のやつ?」


その瞬間、玲司自身が首をかしげる。


「でもさ、それ夢だったかも」


悠真は気づく。


“会話が始まる前に消えている”。


昼休み。


クラスの数人が同じ言葉を呟いている。


「なんか変な夢見た」


「空が変だった」


「誰かが言ってた気がする」


だが誰も“自分が言った”とは思っていない。


これは共有ではない。


「同時発生」


放課後。


帰宅。


結衣は夕飯を作っている。


包丁の音。


鍋の音。


リズムは完璧に一致している。


悠真は声をかける。


「結衣」


「なに?」


振り返る動作に、もう遅延はない。


むしろ“速すぎる”。


「今日さ」


「何か覚えてる?」


結衣は少しだけ止まる。


そして言う。


「覚えてるよ」


悠真は息を止める。


結衣の目は揺れない。


だがその言葉は“結衣の記憶”ではない。


誰かの記憶をそのまま借りている。


悠真は理解する。


結衣はもう“記憶を持っていない”。


スマホが震える。


通知なし。


履歴なし。


しかし画面には明確な更新がある。


【個体識別:崩壊開始】

【神崎結衣:単体概念から除外中】

【同期群:最大値更新】


悠真はスマホを握りしめる。


「除外……?」


外を見る。


影がある。


しかしそれらは“個別”ではない。


同じタイミングで動く。


同じ方向を見る。


同じ停止をする。


それはもはや“群れ”ではない。


一つの“意識”だった。


結衣が静かに言う。


「兄貴」


「私たちってさ」


間。


「まだ別々なの?」


その瞬間、悠真の呼吸が止まる。


スマホが勝手に起動する。


画面は白い。


そこに一行だけ。


【個体という概念は維持不能】

【再構成フェーズ:開始】


悠真は理解する。


これは終わりではない。


“始まりの崩壊”だ。


結衣が微笑む。


だがその笑顔には“誰のものでもない統一性”がある。


「ねぇ兄貴」


「もう、分けなくていいよね?」


その瞬間。


部屋の境界が一瞬だけ曖昧になる。


そしてスマホに最後の通知。


【第1部中核領域へ移行】

【欠けた世界:臨界状態】

読んでいただきありがとうございます。

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