第五十六話 同じ願い
世界が止まった。
風も。
音も。
崩壊も。
全部、静止する。
巨大な目だけが、揺れていた。
「矛盾発生」
「統合結果 不明」
二人の悠真。
現実側。
記録側。
どちらも、同じ答えを選んだ。
“結衣を残す”。
その瞬間。
統合そのものが停止した。
レンが呆然と呟く。
「……成立しない?」
先行保持者が目を見開く。
「違う」
「世界側が、“処理できなくなった”」
世界法則は、“どちらか”を選ばせる構造だった。
現実か。
記録か。
生存か。
消滅か。
だが。
二人とも、“同じ願い”を持っていた。
優先順位が一致してしまった。
だから。
世界が答えを出せない。
巨大な目が軋む。
「選別不能」
「観測基準 崩壊」
結衣が涙を流しながら立ち尽くす。
「兄貴……」
現実側の悠真が、ゆっくり結衣を見る。
「泣くな」
記録側の悠真も続ける。
「お前が泣く終わりは、もういらない」
同じ言葉。
同じ声。
でも。
ほんの少しだけ違う。
現実側の悠真は、“今”を見ている。
記録側の悠真は、“全部の未来”を見ている。
巨大な目が、強制的に統合を進めようとする。
空間が歪む。
二人の悠真の身体が、少しずつ重なり始める。
レンが叫ぶ。
「まずい!!」
「強制融合だ!!」
先行保持者も顔を歪める。
「耐えきれないぞ!!」
人格。
記憶。
存在。
全部が混ざる。
もし失敗すれば。
“神崎悠真”そのものが崩壊する。
結衣が叫ぶ。
「やめて!!」
だが。
二人の悠真は、静かだった。
現実側の悠真が笑う。
「まぁ」
「こうなるよな」
記録側の悠真も、小さく笑う。
「結局、お前は俺だ」
二人の手が重なる。
その瞬間。
無数の記憶が流れ込む。
初めて結衣を抱いた日。
喧嘩した日。
笑った日。
失った日。
壊れた日。
全部。
全部、“神崎悠真”だった。
結衣が泣きながら叫ぶ。
「兄貴!!」
その声に。
二人の悠真が同時に振り返る。
そして。
最後に、同じ笑顔を向けた。
「大丈夫」
次の瞬間。
二人の身体が、光へ変わった。
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