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てのひら無双 ~精霊に愛された人形師ときゃわわぬいぐるみ~  作者: 鮪野登呂介
王都アルヴェリア編

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4匹目!

これ、タイトルが全てです。ホークは最初、うるさくなかった。でも次の話からはもう違います。どうしてこうなった。カエデもそう思ってます。私もそう思ってます。

ミアのうさぎを作り終えた翌日、カエデは素材の袋を整理していて、気づいた。


「あ~結構余っちゃってるなぁ」


魔力繊維も、鉱石粉末を混ぜた中綿も、植物由来の染料も——全部、ミアの分よりも多めに仕入れていたから、きっちり使い切れなかった。


「……もったいないな」


独り言だった。しろが懐の中で片耳を立てた。ぽぽが肩の上から覗き込んできた。


「もったいない、という話です」


「ぽっ」


ぽぽは共感しているのか、それとも単に返事をしただけなのか、判断がつかなかった。


魔力繊維は長期保存が利くとタウルが言っていた。でも鉱石粉末を混ぜた中綿は、一度空気に触れると少しずつ性質が変わっていくらしい。使うなら今のうちの方がいい。


カエデは針を取り出して、しばらくぼんやりと考えた。


何を作ろうか。


しろは狼で、ぽぽはドラゴンだ。なんとなく、次は鳥かな、という気がした。特に根拠はない。しろとぽぽが地上と空を担当しているなら、空も一体くらいいてもいいかもしれない、という程度の発想だった。


「鳥、作ります」


「ぽっ?」


「なんとなくです」


「……今度はうるさくないほうがいいな」


懐の中からしろが短く言った。許可を求めていたわけではないけれど、なんとなく嬉しかった。


---


形を考えながら縫い始めると、思ったより時間が吸い込まれた。


鳥の難しさは羽だ。左右を同じ形に仕上げるのが、狼や竜よりずっと難しい。少しバランスが狂うと、妙に傾いた印象になる。何度か解いてやり直しながら、ようやく納得のいく羽の形になったのは昼を過ぎた頃だった。


染料を使う段になって、カエデは少し迷った。


何色にしようか。


しろは白で、ぽぽは赤みがかったオレンジだ。でも鳥に決まった色はない。思い切って、染料を何種類か混ぜてみた。植物由来の染料は混色すると予想外の発色をすることがある、とタウルに教わっていた。試してみたかったのもあった。


できあがった羽は、光の加減で色が変わった。


正面から見ると淡い金色で、角度によって緑がかったり、青みがかったり、ほんの少し紫になったりした。虹色、というほど派手ではないけれど、静かに輝く羽だった。


「……きれいになった」


自分で言って、少し恥ずかしくなった。でも本当にそう思った。


しろが懐から顔を出して、鳥のぬいぐるみをひと目見た。何も言わなかった。でもまた懐に戻っていった。それがなんとなく「悪くない」という意味だとわかった。


ぽぽが肩から降りてきて、鳥の羽に「ぽっ!」と近づいた。


「つつかないでください」


カエデは首を傾けた。


いまの声は、ぽぽではなかった。


鳥のぬいぐるみが、カエデの手の上で、小さな頭をゆっくりと上げていた。


羽の色がふわりと揺れた。金から緑、緑から青、青から淡い紫へ。目に使った小さな黒いボタンが、光を反射してほんの少しきらめいていた。


「……あ」


カエデは固まった。


「ぽっ!!」


ぽぽがまた鳥に近づいた。


「申し上げましたでしょう。近づかないでくださる?」


声は小さくて、でもはっきりしていた。語尾が少し気取っていた。


「ぽっ!!」


「近いですわ」


「ぽ……っ」


ぽぽが一歩引いた。珍しいことだった。


鳥のぬいぐるみは、次に羽の配置を確認し始めた。右の羽を少し広げて、また畳む。左の羽も同じように。それから尾羽の角度を調整して、満足そうに頭を立てた。


「……よろしい」


独り言のようだった。でも誰かに聞かせているような言い方でもあった。


カエデはしばらくそれを眺めてから、口を開いた。


「名前、つけていいですか」


鳥がカエデを見た。じっと見た。判断しているような目だった。


「……どうぞ」


「ホーク」


「ホーク」と鳥は繰り返した。


少し間があった。


「……まあ、よろしいですわ」


よろしい、というのはどの程度よろしいのか聞こうかと思ったけれど、やめた。


---


その夜、ルーチェが王都の花屋から帰ってきて部屋を覗き込み、テーブルの上に並んだしろ・ぽぽ・そして新しい鳥を見て、一言言った。


「増えた」


「増えた」とカエデも言った。


「なんで?」


「素材が余ったので」


ルーチェが少し考えて「なるほどね」と言った。それ以上深く聞かなかった。そういうところがルーチェのいいところだと思った。


ホークはその間も、羽の配置を整えていた。ぽぽが横から「ぽっ」と声をかけると「少し黙っていてくださる?」と返した。ぽぽが「ぽっ!」と言い返した。


しろが懐から目だけ出して二匹を一瞥した。それから静かに目を閉じた。


「……悪くない」


しろが言った。誰に向けて言ったのかわからなかった。でもホークが少し背筋を伸ばした。


「恐れ入りますわ」


のんびりスローライフ……とカエデが思いかけて、やめた。これはスローライフではないかもしれないけれど、なんだか、悪くなかった。

ホークが生まれました。理由は「素材が余ったから」です。カエデらしい。そしてぽぽとの相性がすでに最悪です。でもしろには一発で頭が上がらないあたり、ホークはちゃんとわかってる。次の話から賑やかになります。

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