お茶会は緊張します
ぽぽの感嘆符が六連打になる話を書きたかった。貴族のお嬢様たちを前にしても全力で得意がっているぽぽが、らしくて好きです。
セレナの茶会の招待状が来たのは、王都に着いて五日目のことだった。
正確には、セレナが「来週、少人数で茶会を開きます。カエデさんも来てください」と言った。招待状という形ではなかった。セレナにとってはそれが自然な言い方らしかった。
「少人数で、というのはどのくらい?」と楓が聞くと、「七人か八人です」とセレナが答えた。
「……それを少人数と呼ぶんかぁ」
「王都では少ない方です」
楓はその言葉を少し反芻した。七人か八人が少ない方、という文化圏に自分は今いる。のんびりスローライフ、という言葉が頭をよぎったが、まだ声に出す段階ではなかった。
「しろとぽぽも一緒に来てもいいなら」
「むしろそちらがメインです」とセレナが言った。少しだけ楽しそうな目をしていた。セレナが楽しそうにするとき、それは大抵、事態がセレナの思い通りになっている瞬間だ。楓はその目を見て、ほんの少し嫌な予感がした。
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茶会の当日、楓は侯爵邸の応接間に通された。
集まっていたのは八人だった。みんな若かった。十代後半から二十代前半というところだろうか。礼服を着て、背筋を伸ばして、クロードが運んでくるお茶を両手で受け取っていた。楓はその中で一人だけ、仕立てのいい旅着を着た状態で椅子に座っていた。場違いだとわかっていた。でも呼ばれたのだから来るしかなかった。
セレナが楓を紹介した。「こちらがカエデさんです。エルミナから来た人形師で、精霊が宿るぬいぐるみを作れる方です」
八人の視線が楓に集まった。それぞれ、好奇心と礼儀と、少しの品定めが混ざった目をしていた。貴族のお嬢様たちが知らない人間を見るときの目だ、と楓は思った。悪意があるわけではない。ただ、測っている。
「よろしくお願いします」と楓は言って、軽く頭を下げた。
その瞬間、ぽぽが楓の肩で「ぽっ!!」と言った。
応接間が、一瞬静かになった。
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最初に声を上げたのは、一番年若そうな娘だった。
「しゃべった!!」
「ぽっ!!」とぽぽが応えた。これ以上ない明快な返事だった。
堰が切れたように、八人全員が前のめりになった。
「かわいい!!」「しゃべるんですか!?」「ぽっ、ってどういう意味なんですか?」「触れますか!?」「触ってもいいですか!?」「どこで手に入るんですか!?」
質問が全部同時に来た。ぽぽは楓の肩の上で胸を張って、「ぽっ!!ぽっ!!ぽっ!!」と三連打した。嬉しそうだった。得意そうだった。こういう状況をぽぽは心の底から楽しんでいる。生まれた瞬間から、ぽぽはずっとこういう子だった。
「触れますか、という質問については」と楓は答えながら、ぽぽを手のひらに乗せた。「触ってみてください」
一斉に手が伸びてきた。ぽぽは全員の指先に順番に「ぽっ!」と鳴いて応えた。完璧な接客だった。楓は「この子、こういうの好きなんですよ」と言った。本当のことだった。
その間、しろは楓の懐の中から顔を出して、応接間全体を一瞥した。ぽぽと、お嬢様たちと、楓を順番に見た。それから目を細めて、また懐に戻った。
楓には、しろが「好きにしろ」と言っているように聞こえた。言っていないけど、そういう意味だと思った。
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お茶が進む中で、ぽぽは完全に解き放たれていた。
一人のお嬢様の肩に乗って「ぽっ!!」、別のお嬢様の手首に飛び移って「ぽっ!!ぽっ!!」、テーブルの上に着地して全員に向かって「ぽっ!!!!」。感嘆符の数が増えるほど機嫌が良いのだ、と楓はいつの間にか説明するようになっていた。お嬢様たちが「じゃあ今はとても機嫌がいいんですね!」と笑った。ぽぽが「ぽっ!!!!!!」と六連打した。最高記録に近かった。
「ぽぽっていう名前なんですか?」と一人が聞いた。
「そうです。なんかまるっこいから、という理由でつけました」
「なんかまるっこいから!?」
「ぽっ!!」とぽぽが肯定した。自分の名前の由来を誇りに思っているような声だった。全く気にしていない。むしろ気に入っているようにさえ見えた。この子は昔からそういう子だ、と楓は思った。細かいことを気にしない代わりに、嬉しいことには全力で嬉しがる。
楓の隣でセレナが静かにお茶を飲んでいた。楽しそうだった。いつもの冷静な顔だったが、目の奥が笑っていた。
「セレナ、これ最初からわかってたよね」と楓は小声で言った。
「何がですか」とセレナが言った。目の奥が、もう少し笑った。
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「あの、もう一体はどちらに」と一人のお嬢様が聞いた。
「えっと」と楓は言って、懐を少し開いた。「こちらです。しろ、こんにちは」
しろが懐から顔を出した。
青い目が、応接間全体を静かに見渡した。ぽぽとは全く違う種類の気配だった。
お嬢様たちが、少しだけ黙った。
ぽぽが楽しいと感じさせる気配を持っているなら、しろは違う。しろの気配は、部屋の空気の密度を少しだけ変える。怖いわけではない。ただ、そこにいる全員が「何かがいる」と本能的に感じる、そういう気配だ。
「……すごく、きれいな目をしていますね」と誰かが小さく言った。
しろは何も言わなかった。ただ、その娘を一度だけ見た。それだけで、その娘が少し顔を赤くした。
楓は「人見知りなので」と言った。正確ではなかったが、そう説明する方が早かった。しろが耳を少しだけ後ろに向けた。異議あり、という感じだった。でも訂正はしなかった。
「触れますか」と別のお嬢様が恐る恐る聞いた。
「どうぞ」と楓が言った。
お嬢様が指先をそっと伸ばした。しろがその指先を、一瞬だけじっと見た。それから、ゆっくり目を細めた。
拒否ではなかった。許可、でもなかった。ただ、見た。それだけだった。
「……触っていいのかどうかわからないですね」とお嬢様が言った。
「しろはいつもそういう感じです」と楓は言った。「でも怒ってはいないと思います」
しろが耳を前に向けた。「怒っていない」という意思表示だった。ただし目は細いままだった。
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茶会が終わりに近づいた頃、一人のお嬢様が「精霊が宿るぬいぐるみを注文することはできますか」と聞いた。
「作ることはできますが」と楓は答えた。「精霊が宿るかどうかは、私には約束できなくて」
「宿らないこともあるんですか?」
「あります。宿っても宿らなくても仕事は仕事なので、その点だけご了承いただければ」
お嬢様たちがそれを聞いて、少し考えた。正直な答えだと思ったらしかった。中には「でも、あなたのところの子たちはみんな宿っているんですよね」と言う娘もいた。
「そうですね」と楓は答えた。「なんでかはよくわかっていないんですが」
「のんびりしてるんですか、あなた」と別の娘が少し呆れたように言った。悪意はなかった。ただ率直だった。
楓は少し考えた。のんびり、かどうか。王都まで来てしまっていることを思うと、そうとも言えない。でも、精霊が宿る理由を解明しようという気持ちは特になかった。宿ったら喜ぶし、宿らなかったら「そういう日もある」と思う。それだけだった。
「のんびりスローライフを目指しているんですが」と楓は言った。遠い目だった。「なかなかそうもいかないことが多くて」
お嬢様たちが笑った。
ぽぽが「ぽっ!!ぽっ!!ぽっ!!」と三連打した。共感しているのか、笑いに乗っかっているのか、区別がつかなかった。
しろが懐の中で、静かに丸まった。
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帰り道、ルーチェが待っていた。花の仕入れ先の一軒を訪ねて戻ってきたところだった。
「どうだった?」
「ぽぽが貴族のお嬢様方に大人気だった」
「そうなると思ってた」とルーチェが言った。まったく疑っていない声だった。「しろは?」
「しろはしろだったね」
「そっちも想像通り」
楓はそれを聞いて、少し笑った。ルーチェはいつもそういう人だ。大事なことを一言で言い当てて、それ以上追わない。それが心地いい。
「依頼が来そうだなぁ。ぬいぐるみの」
「来るね絶対」とルーチェが言った。「でもカエデのペースでやれば大丈夫でしょ」
「それぁそう!」
ぽぽが「ぽっ!!」と言った。今日一番勢いのある「ぽっ!!」だった。楽しかったらしい。しろが懐の中で少し重くなった。疲れていると、しろは少し重くなる気がした。気のせいかもしれなかった。でも楓はそう思っていた。
王都に来て五日が過ぎた。まだ何も始まっていなかった。でも何かが、少しずつ動いていた。
しろが指先をじっと見て目を細めるだけで、触れていいかわからなくなる場面。しろの「格」を言葉以外で表現したかった回でした。ぽぽとの対比が書けて満足です。楽しんでいただけたら、ブックマークや高評価をいただけると次を書く力になります。よろしくお願いします!




