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てのひら無双 ~精霊に愛された人形師ときゃわわぬいぐるみ~  作者: 鮪野登呂介
王都アルヴェリア編

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いざ!裁縫職ギルド

タウルというキャラクターを書きたかった。不愛想だけど正直で、職人として筋が通っている人。「手を見せろ」という一言でその人の全部が出る気がします。

裁縫職ギルドは、王都の中心から少し外れた場所にあった。


石造りの落ち着いた建物で、看板に針と糸の意匠が彫ってあった。扉を押すと染料と糸の匂いがした。エルミナにも似た匂いの場所があった、と楓は思った。職人の匂いだ。どこの街でも、働いている場所の匂いは少し似ている。


ルーチェが「なんか落ち着く」と小声で言った。楓も同感だった。


受付の奥から出てきたのは、五十代くらいの大柄な男だった。肩幅が広く、手の甲に細かい傷がいくつもあった。長年糸と布地を扱ってきた手だと楓にはわかった。自分の手にも、同じような傷がある。


男が楓を見た。次にしろを見た。次にぽぽを見た。それから楓に戻ってきて、少し間を置いた。


「人形師、だそうだな」


「はい。楓と申します」


「タウルだ。このギルドで副長をしている」


タウルは楓の顔を、品定めするように見た。隠していなかった。失礼なわけではなく、ただ正直だった。こういう目をする人間が楓は嫌いではなかった。


「ぬいぐるみに精霊が宿る、という話は聞いた。王都じゃ最近その話で持ちきりだ」


「そうみたいですね」


「信じてるわけじゃない」


「はい」


「ただ、仕事をする人間かどうかは見ればわかる」タウルが腕を組んだ。「手を見せろ」


楓は少し驚いたが、両手を差し出した。タウルが顎を引いて、じっと見た。長い間見た。それから「なるほどな」とだけ言って、顔を上げた。何がなるほどなのか、楓にはわからなかった。でも悪い意味ではないとわかった。


---


登録の手続きはあっさりしていた。


書類に名前を書いて、出身地を書いて、専門を書いた。専門の欄に「人形師(ぬいぐるみ製作)」と書いたら、タウルが少し眉を上げた。眉を上げただけで何も言わなかった。


「王都の裁縫職ギルドには、人形師は何人くらいいるんですか」と楓が聞いた。


「お前で二人だ」


「少ないですね」


「珍しい職だからな。もう一人は老齢で、もうほとんど作っていない」タウルが書類を棚に収めながら言った。「だから正直なところ、人形師がギルドに来るのがどういうことなのか、俺にもよくわからん」


「私もよくわかっていません」


タウルがこちらを見た。楓は続けた。「ただ、素材をもっと知りたくて。この世界にしかない素材が、王都のギルドなら手に入ると聞いたので」


少しの間があった。


タウルの顔が、微妙に変わった。懐疑的な色が薄れて、代わりに職人が同業者に向ける顔になった。まだ信用はしていない。でも話を聞く気にはなった、という顔だった。


「どんな素材を使ってきた」


楓が答えた。エルミナで手に入る布地の種類、綿の質、糸の選び方、染料の違い。話しながら楓は少し気分が上がっているのに気づいた。素材の話をするとき、自分はいつもこうなる。


タウルが黙って聞いていた。途中で一度だけ「ほう」と言った。それだけだった。でも楓にはわかった。職人が本気で聞くときの「ほう」だ。流している「ほう」とは音が違う。


---


「一つ、見せてやろう」


タウルが立ち上がって、ギルドの奥に向かった。ついてこい、という雰囲気だった。楓がルーチェと顔を見合わせて、後に続いた。


奥の棚は壁一面に素材が並んでいた。布地、糸、装飾材、染料。エルミナのギルドと似た構造だったが、数も種類も比較にならなかった。ルーチェが「うわあ」と小さく声を上げた。楓は棚全体を眺めて、一度だけ深く息を吸った。


タウルが棚の奥から一つの木箱を取り出した。蓋を開けると、中に糸が入っていた。


普通の糸ではなかった。


色が、うまく表現できなかった。白でもなく、銀でもなく、光の角度によって変わる何かだった。触れていないのに、近くにいるだけで指先がわずかに温かくなった気がした。


「魔力を帯びた繊維から紡いだ糸だ。魔糸という。王都の郊外に生息する特定の蚕から取れる。量が少ないから高い。扱いも難しい。普通の針では切れないし、普通の糸と一緒に使うと反応する」


楓がその糸を、まじまじと見た。


しろが懐から出てきた。


静かに、でも確実に出てきて、木箱の縁に前足を置いた。糸を見た。目が細くなった。


タウルが動きを止めた。


「……その精霊が、魔糸に反応している」


「反応してますね」


「本当に、宿っているんだな」


「はい」


タウルが少しの間、しろを見た。しろはタウルを見た。タウルが先に目を逸らした。負けた、という顔ではなく、ただ納得した、という顔だった。


ぽぽが楓の肩から「ぽっ!!」と言いながら木箱に向かって突進しようとした。楓が先にぽぽの背中を押さえた。「触らない」「ぽっ!!」「触らない」「ぽっ……」。タウルがその一連を黙って見ていた。表情は変わらなかった。でも目の奥に、何かが動いた気がした。


---


「使ってみたいか」とタウルが聞いた。


楓は即座に「はい」と言った。


「試してみてからでないと売れない。それが条件だ」


「わかりました」


「失敗しても文句は言うな。素材が無駄になるだけだ」


「わかりました」


タウルが楓を見た。さっきとは少し違う目だった。懐疑的な成分が減って、職人同士として話す目に近くなっていた。


「王都に来た理由を素直に言う人間は少ない。たいてい、もう少し格好のいいことを言う」


「格好いいことは特に思いつかなかったので」


「そういうやつが、いい仕事をする場合がある」タウルが木箱の蓋を閉めた。「場合があると言っただけだ。まだ見てない」


「見せます」と楓は言った。


タウルが少しだけ眉を動かした。また「なるほどな」と言いそうな顔をして、結局何も言わなかった。


ルーチェが帰り道に「あの人、カエデさんのこと気に入ってたよ」と言った。


「そうですか」


「絶対そう。素材を見せてくれたじゃん」


「条件付きで試させてくれただけです」


「それが気に入ってる証拠だって」


楓は首を傾けた。よくわからなかった。ただ、素材の棚の前で感じた気分の高まりはまだ少し残っていた。この世界にしかない素材がある。それを使えるかもしれない。それだけで、王都に来た意味が少しあった気がした。


しろが懐の中で静かにしていた。ぽぽが「ぽっ!」と言いながら肩で身を乗り出した。きっと魔糸のことを考えていた。楓も考えていた。

しろが魔糸に反応して木箱の縁に前足を置く場面と、ぽぽが突進しようとして楓に押さえられる場面は対比として書きました。しろの「格」とぽぽの「勢い」が同時に出てよかった。楽しんでいただけたら、ブックマークや高評価をいただけると次を書く力になります。よろしくお願いします!

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