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てのひら無双 ~精霊に愛された人形師ときゃわわぬいぐるみ~  作者: 鮪野登呂介
港町エルミナ編

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爆誕!ぽぽちゃん!

ぽぽ、ついに爆誕。「ぽっぽっ!」というこの子の鳴き声、書いていてキューアグが止まりませんでした。しろとぽぽが初めて並ぶシーン、伝わってほしい。

魔獣の毛皮を手に入れてから三日が経った。


その間ずっと、楓はドラゴンのぬいぐるみをどう作るかを考え続けていた。


ドラゴンは難しい。狼なら「丸くて耳があってしっぽがある」で済むが、ドラゴンとなると要素が増える。翼があるか。角があるか。足は四本か二本か。全体的に細身か太身か。炎を吐く口のデザインをどうするか。前の世界で見てきたドラゴンのイメージが頭の中でぐるぐる回って、なかなか一つに絞れなかった。


「ね、カエデ」とルーチェが言った。お茶を持ってきて、楓の向かいに座って、素材を眺めていた。「三日間ずっとドラゴンのこと考えてるでしょ」


「わかる?」


「ご飯食べながらも考えてた。昨日お母さんに話しかけられても返事してなかった」


「それは申し訳なかった」


「お母さんは慣れてるって言ってた」


そういう慣れ方をされるのは少し複雑だが、ありがたかった。楓はお茶を一口飲んで、テーブルの上の素材を見た。毛皮の一部、魔石の破片、光る樹皮の欠片。どれも初めて触るもので、どれも何かになりたそうにしていた。


しろが毛皮の端を鼻でつついた。


「そろそろ決めろってこと?しろも仲間がほしいか?」


しろの耳が、ぴこ、と動いた。


「……そうだね」


楓は布を手に取った。


---


決めてしまえば、手が動いた。


ドラゴンは「まるっこい」方向で行くことにした。怖いドラゴンじゃなくて、抱きしめたくなるドラゴン。翼はある。角もある。でも全体的に丸みを持たせて、目は大きめにして、足は短めにする。毛皮はお腹の部分に使う。あの光沢と密度が、ドラゴンの鱗っぽい質感になると踏んだ。


布を裁って、形を決めて、縫い合わせていく。


翼の部分は骨格を意識して、内側に少し硬めの素材を入れてみた。これで立つ。綿を詰めるときに翼の形が崩れないよう、詰め方を工夫する。角は細く巻いた布を縫い付けて、先端を少し丸くした。尖らせると子どもが触ったとき危ない、という発想は前の世界の習慣だが、この世界でも同じだろうと思った。


お腹の毛皮を縫い込むところで少し手間取った。毛が縫い目に巻き込まれる。何度かやり直して、毛並みの方向を揃えることで解決した。こういう試行錯誤が、思いのほか楽しい。うまくいかない時間が長くて、でもうまくいった瞬間に「これだ」という感覚が来る。その繰り返しが、縫い物の面白さだと思う。


しろは楓の膝の上で眠っていた。


よく眠る。今日は三回昼寝している。精霊の睡眠事情がどうなっているのか謎だが、起こす気にはなれなかった。


目の素材は魔石の破片にしてみた。光の角度によって色が変わる、あの薄緑の石。小さく磨いてはめ込むと、光源の方向によってぱちぱちと輝く。少し生きている感じがした。


完成が見えてきたのは夕方だった。


---


ランプを灯した頃、ドラゴンのぬいぐるみが出来上がった。


手のひらより少し大きめ。お腹の毛皮が光沢を持って、翼がちゃんと立っている。角は二本、少し非対称になったが、それがかえって愛嬌になった。目は魔石の破片で、ランプの光を受けてうっすら緑に光っている。


「……うん、いい」


しろが目を覚まして、ドラゴンのぬいぐるみを見た。


しろは少し長い間それを見て、それから楓を見て、また目を細めた。


「気に入った?」


しろの耳が、ぴこ、と動いた。


楓はドラゴンをテーブルに置いて、少しだけ離れた。完成直後の儀式のようなもので、しばらく遠目から眺める時間が好きだった。前の世界でもそうだった。作り終えて、一歩引いて、自分が作ったものを「自分が作ったもの」として受け取る時間。


光らなかった。


動かなかった。


それでよかった。これがどうなるかは、もう少し待てばわかる。


楓は布団に潜って、目を閉じた。


---


問題が起きたのは真夜中だった。


ぴかっ。


それも今まででいちばん明るかった。


橙色の光が部屋を満たした。青白かったしろのときとはまったく違う、燃えるような、熱い色の光だった。楓は目を覚ました。目を開けると、テーブルの上のドラゴンが、光に包まれていた。やわらかくない。鋭い光だった。しろのときの水色の光が「そっと包まれた」感じだったとすれば、これは「燃え上がった」感じだった。


数秒続いて、光が収まった。


部屋が暗くなった。


楓はぼうっとした頭のまま起き上がった。テーブルを見る。ドラゴンのぬいぐるみが、そこにある。


動いた。


ばっ、と四本足で立ち上がった。しろのよちよちとした動きとは全然違う、勢いのある動きだった。首をぐるりと回して部屋を見た。魔石の目が橙色に光っている。そして、


「ぽっ」


鳴いた。


「……え」


「ぽっぽっ!」


大きくなった。ぬいぐるみのくせに声が大きかった。しろは一度も鳴いたことがないのに、このドラゴンは開口一番から「ぽっぽっ」と言っている。


楓はしろを見た。しろは目を開けて、ドラゴンを見ていた。


「ぽっ! ぽっぽっ!」


ドラゴンが部屋の中を歩き回り始めた。勢いよく。目が橙色に光りながら。テーブルの端まで行って、ぎりぎりで踏みとどまって、また戻ってきて、しろの方を向いた。


ドラゴンとしろが、向き合った。


「ぽっぽっ!」


しろは何も言わなかった。動かなかった。ただ、じっとドラゴンを見ていた。


ドラゴンがしろに近づいた。


しろは少し首を傾けた。


ドラゴンがさらに近づいた。


しろがゆっくりと立ち上がって、


ぽすっ、とドラゴンの頭に前足を乗せた。


ドラゴンが止まった。


「ぽ……」


しろがそのまま、また丸くなった。前足だけドラゴンの頭の上に置いたまま。


「……えっ、なにこれ」


楓はしばらくその状態を眺めた。しろがドラゴンを抑えている。穏やかな目で。「うるさい、黙れ」ではなくて、「まあ落ち着け」という感じで。


ドラゴンは抑えられたまま、しばらく動かなかった。それから「ぽ……」と小さく鳴いて、しろの前足の下でぴこぴこと翼を動かした。


楓は膝からずり落ちそうになった。


---


翌朝、ルーチェがお茶を持ってきたとき、テーブルの上でしろとドラゴンが並んでいた。


しろは丸まっている。ドラゴンはしろの隣で背筋を伸ばして座っている。


ルーチェが固まった。


「……二体いる」


「昨夜また宿った」


「ドラゴンに」


「ドラゴンに」


「ぽっ!」とドラゴンが言った。ルーチェが「わっ」と声を上げた。


「しゃべる!?」


「しゃべってるのかどうかわからない。そういう鳴き声」


「でもしろちゃんは鳴かない」


「そう」


ルーチェがドラゴンをまじまじと眺めた。ドラゴンもルーチェを見た。橙色の目がぱちぱちと光る。


「かわいい……」


「でしょ」


「ぽっぽ!」


「うるさい」とルーチェが言った。「かわいいけどうるさい」


「そう」


ルーチェがお茶を置いて、ドラゴンに向かって「名前は?」と聞いた。ドラゴンは「ぽっ!」と答えた。


楓が言った。「ぽぽ、にしようと思って」


「ぽぽ」


「なんかまるっこいから」


「それだけ?」


「それだけ」


ルーチェが「まあカエデさんらしい」と言って、お茶を飲んだ。ぽぽが「ぽっぽっ!」と言いながら楓の腕を登り始めた。しろがそれを見て、耳をぴこ、と一度だけ動かした。


「しろ、迷惑?」


しろは答えなかった。でも耳を伏せなかった。


楓はぽぽが肩まで登ってくるのを静かに受け入れた。肩の上で「ぽっ!」と勝ち誇ったように鳴いた。


これが二体目だった。


---


その日の午後、ぽぽとしろが初めて並んで楓の両肩に乗った。


しろは右肩。ぽぽは左肩。


しろは静かに外を見ていた。ぽぽは「ぽっぽっ」と言いながら楓の頭越しにしろを見ていた。しろが視線に気づいて、じっとぽぽを見た。ぽぽが少し大きめに「ぽっ!」と鳴いた。しろが片耳だけ後ろに向けた。


「喧嘩はやめて」


二体ともだんまりになった。


ルーチェがそれを見て、「落差がすごい」と言った。


「何が」


「しろちゃんはクールなのに、ぽぽはうるさすぎる」


「そう。真逆なんだよね」


「なんで真逆のが宿ったんだろう」


「わかんない」


「ぽっ!」とぽぽが言った。「自己主張がすごい」とルーチェが言った。「そう」と楓が言った。しろは黙っていた。


ぽぽがしろの方に歩いていった。しろの隣に座った。しろは動かなかった。ぽぽがしろを見た。しろはぽぽを見た。どちらも動かない。


しばらくして、ぽぽが「ぽ」と小さく鳴いた。


しろが、ほんの少しだけ、体を寄せた。


楓はそれを見て、何も言わなかった。ルーチェも黙っていた。


お茶が冷めていた。


窓の外から港の音がする。夕方に近づいてきた空が、少しずつ橙に染まっていた。しろの目の色に似ていた。いや、ぽぽの目の色に似ていた。どちらにも似ていて、どちらでもなかった。


「のんびりスローライフ……」


楓は遠い目で呟いた。


「してないじゃん」とルーチェが間髪入れずに言った。


「してたかったんだよ」


「なる気しないけどね、このペースだと」


「……わかってる」


ぽぽが「ぽっ!」と言った。しろが耳をぴこ、と一度動かした。


楓は両肩に二体乗せたまま、もう一口お茶を飲んだ。完全に冷めていたが、甘かった。

名前の由来「なんかまるっこいから」、これ以外考えられないと思いました。しろが体を寄せるあのシーン、わずかな動きでいろんなことを語らせたつもりです。次回はルーチェが大暴れします。

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