首絞め男
少年はこっそりとドアを開けた。生暖かい風が入ってくる。歩いていればぎりぎり汗をかかないだろう湿度の高い風だった。
夏休みの真夜中、少年はこっそりと家を抜け出して〇〇公園へ向かった。
無論、「首絞め男」に遭うためである。
首絞め男というのは彼の町に語り継がれている妖怪のことだ。
そいつは人に出会うと首を絞めてくるらしい。ここまではよく聞く怪談だが、それこそがこの妖怪の存在を異端にしている。
絞める首は目撃者のものではないのだ。首絞め男は人に出会うと狂ったように奇声をあげ、関節がありえない方向に曲がり「首絞め男自身の」首を絞める。そしてよく見てみれば首と胴体が離れていると言うのだ。
少年は小さい頃から(といっても彼は小学生、今を小さい頃といっても何も違和感はない)妖怪などが出てくる怪談が好きだった。そのため、実際に会ってみたいと思うようになったのは筋の通った話だろう。
このあたりに出没すると言われる妖怪を調べてみた。そうして一番に出てきたのが首絞め男だったというわけである。
そこで、少年は夏休みという期間を使って首絞め男を探しに行くことにしたのだ。
なぜ、〇〇公園へ向かうのか?それはただ妖怪は暗いところから現れるはずだと思い、人通りが少ない公園であるという点と、いくら寝てるとはいえ、両親がいつ起きるか分からない。起きてしまったら最後、大目玉を食らうに決まっている。だからなるべく近くのところがいいという点の二つを満たすのが〇〇公園という安直な考えからである。
こうして、少年は両親に内緒で家を出たのだった。
少年は公園までの道を進んだ。星も月も見ることができないどんよりとした空だった。空気が重苦しい。だからか少年は夜の町に不思議な印象を受けた。早い話別の町に来たような気分になったのだ。
しかし、少年に止まる気はない。見たいという気持ちのほうが強かったようだ。
何だかんだで〇〇公園に着いた。
夜の〇〇公園は少年が懐中電灯を持ってこればよかったと思うくらい暗かった。明かりが一切なかった。おそらく〇〇公園は人通りがごくわずかであるからである。そのかわり虫の声のみはひたすらに反響し、やかましく感じた。
ベンチも、滑り台も、ブランコも何もかもが不気味に映った。
〇〇公園は公園を囲うように木が植えられているのだが、それが少年を鳥のかごにいるのではないかと錯覚させた。
クライマックスのように心臓の音が大きくなっていく。少年は恐る恐る公園を回る。
歩き回ってみたが、何もいやしなかった。
少年はため息をついた。それと「ほっ」としている。
公園からでる。その時少年は道が思っていたよりも明るかったことに気づいた。
歩きながら少年は思う。
気が抜けてしまったのだった。また明日だな。
もうすぐ家に着く。
それぐらいの時向こう側から人が歩いてきた。右に避けようと、あからさまに道の端を歩こうとする。
だが、その人は少年と同じ向きに進んできた。そのためぶつかりそうになり、互いは足にブレーキをかける。
「ごめんなさい」
と少年は反射的に謝った。
ぶつかりそうになった人は何も言わない。
だが、その人はゆっくりと手をあげていき、自らの手を首に置いたかと思うと、首を絞めるというより握りつぶすに近い感覚で首根っこをつかんだそして、
「*○@〒0¥¥$€゜+○♪**>000!00!00!00#☆♪==0\^^→→→→→→→→→→→0」
と言葉にならない言葉を発した。ほんの一瞬のことだった。
首絞め男自身の首を絞めている首絞め男の手元を見ると首と胴体が離れてしまっていた。
間違いないというか間違いようがない。
それは本で読んだままの首絞め男だった。
先程まで繋がっていたはずの首が離れて
少年は直感的に逃げようと思った。しかし、うまく足が出ない。
足が絡まる。
思わず尻もちをついてしまった。
すぐそこには首絞め男の足元が見えた。
その時だ。
あれっ、と少年はそれどころではないという事と並列しながらも思う。少年は一つの違和感に気づいたのだ。
少年は目線を少しずつあげていく。
衝撃の元は首絞め男の首から下にあった。それは筋肉質ではなく、曲線を帯びていて……そして……白く。
首絞め男、いや首絞め男と呼んでいいのだろうか。
首絞め男の体は女性のものだったのだ。
そのことを理解した途端に首絞め男は線香花火のようにプツンと跡形もなく消えた。
首絞め男がいたはずのところを見る。
そこは何の変哲もないアスファルトの地面だった。
夏のはずだが震えが止まらない。何が何だか分からない。
考えた言葉がこんがらがってうまくまとまらない。しばらくしてようやく一つのことを形にすることができた。
なぜ、体だけが女性だったんだ?
周りはまだ闇に包まれている。




