エピローグ
懐かしいドリフターのエンジン音が、船内にいるカイエンとアクアに伝わってくる。
完璧なまでに、修理と整備が終わったドリフターは、再び星の海へ漕ぎ出す準備を整えていた。
空港のゲートには、カイエンの母親が見送りに来ているのが見える。
彼女が持つ端末画面には、新しく再構築されたオーガスト、そしてクロノスの穏やかな光が点滅していた。
「もう行くのかい、カイエン」
母親の問いに、カイエンは、片手を軽く上げて、コックピットに飛び乗った。
「あぁ……守り人の役割は、地球人の母さんたちに任せるよ。俺は……こいつと一緒に、まだ見ぬ誰かの SOS を探しに行くんだ」
隣でアクアが、名残惜しそうにドームの街並みを……初めて踏みしめた地球の土を見つめている。
「……ガス、いやアクア。今さらだけどさ、お前の名前……いい名前だよな」
カイエンの言葉に、彼女は少し照れたように笑顔を返した。
「アクア……水……この星の命そのものの名前よね。私、この名前を誇りに思うわ。たとえ私の姿は気体生物で、地球の生物たちに認識されないとしても……私の心は、この星の海と同じように青く澄んだ水でいたいって思うの」
ドリフターが轟音と共に浮上し、やがて重かった重力から解き放たれる。
大気圏を突き抜け、漆黒の宇宙へ。
かつてカイエンが絶望して、見捨てようとした地球が、窓の外でゆっくりと遠ざかっていく。
そこに見えるのは、死にゆく星の姿ではなかった。
気体生物のアクアを通じて、宇宙の仲間たちから贈られた英知と、人々がスーツを着て一歩を踏み出した勇気。
それらが撚り合わされ、地球は今、かつてないほど濃く、深い青色を放って輝いているように見えた。
「カイエン……見て。離れてみたら、あんなに綺麗。何も変わらないのね、美しい……私の憧れていた惑星……テラよ」
「……ああ。皮肉なもんだな。中にいた時はあんなにボロボロに見えたのにな」
カイエンは、操縦桿を握る手に力を込めた。
…………幼い頃に憧れた夢の惑星とは違っていた。
現実は過酷で、危機に瀕し、人は争い、心を忘れていた。
けれど、だからこそ、それぞれが自分の役割を見つけ、それを守ろうと動き出した。
今の地球は、どんなお伽話よりも力強くたくましい…………
「自由には、責任が伴う……か。クロノスが言ってたな。俺たちはもう、管理され支配されるだけじゃないんだ。本当の……自分自身の選択は何か……か」
ドームを飛び出した自由には、この青い輝きを未来へ繋ぐという重い責任が伴う。
それは苦しみではなく、生命が未来へと続く1本の道だろう……。
ドリフターの機首が、遠い星系へと向けられる。
発信された感謝の信号が、石板を通じて全宇宙へと広がっていく……小さな青い点のように遠くなった地球を背中で感じながら、カイエンは、再びドリフターを加速させた。
『それぞれの心に、
それぞれの役割を……
それぞれの魂に、
明日へ繋ぐ責任と自由
を……』
青く輝く地球を背景に、一筋の光が宇宙の闇を切り裂いていく。
……彼らの旅は、これからも終わらない。
きっと、
宇宙のどこかで、
星々の鼓動が……
また新しい出会いを
待っている……
完
アクアと一緒に冒険してくださり、ありがとうございました




