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憧れのテラ  作者: 星乃夢


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第七十七話 技術と心


 ドーム中央統治局のメインスクリーンに、ノイズ混じりのカイエンの映像が映し出された。


 背後には、月光を反射して青白く揺らめく気体生物アクアがいるが認識されない……つまり、カイエンと朽ち果てた古代の巨石群、石板しか認識されていない映像だ。


 

 統治局の代表のバルガス長官は、椅子の背にもたれかかりながら、退屈そうに鼻を鳴らした。


「……で、カイエン君。君が連れているという気体生物が、我々地球人に説教をしたいと言っているのかね?」


 カイエンは、苛立ちを握りしめるように拳を固めた。



 大切なのは、隣で静かに話し始めたアクアの言葉を通訳する事なのだと……。


 

「カイエン、地球人に伝えて……。悪意の知性がリセットされた今、私たちは岐路に立っているの。再び数字と効率だけの支配される世界に戻るのか……それとも、生物としての自由と本来の心を取り戻すのか、どうかを……」


「……彼女は言っている。悪意の知性というテラ支配(人工知能)から解放された今、かつての過ちを繰り返すつもりなのか、と。科学技術を優先し、命をないがしろにすれば、また同じ破滅を招くだろう。便利な世の中を作るのは人だが、その人を大切にするのもまた人でなければならないはずだ……と」


 バルガスは、カイエンの必死の通訳を軽く受け流して反論する。


「ハハッ、バカげた理想論だな。我々を救ったのは強固なドームの壁であり、精密な資源管理システムだぞ。目に見えない心などという、幻想のような不確かなもので腹は膨れん。その石板に眠る技術だけを我々に渡せばいいのだ。その本当に存在してるか、してないかも分からん気体生物の妄言をいちいち翻訳する必要はない」


「だっ……黙れ!」


 カイエンが我慢しきれず、バルガスに向かって叫んだ。 


 カイエンの怒りに反して……アクアの心は、悲しみに震えていた。



「リセットされたのはシステムだけじゃないのよ。私たちの記憶も、愛も、このままでは……効率という名の支配の闇に飲み込まれてしまう……。私は、原始時代に戻れと言っているんじゃないの。命を慈しむ心があってこそ、技術は光になるのよ!どうか、分かって……」


「彼女が言いたいのは……人を大切にしない技術に価値はないということだ! 悪意の知性が生まれたのは、人間が心よりも、効率を選んだからじゃないのか!」


 

『警告。通信に外部からの不正アクセスを検知』


 その時、ドームの管制室に警告アラートが響き渡った。


 途端に、バルガスの表情が固まる。


「カイエン、お前……何をした! 妨害工作か!それとも、侵略戦争か?いったい……」

 

 しかし、それはカイエンの仕業ではなかった。


 アクアが、起源の石を通じて放った全天通信に、宇宙の彼方から応答が届き始めたのだ。


『……こちら、惑星リーフのシグマ。アクアの問いを支持する。我らも、かつて技術に溺れ、緑を失いかけた。だが、命との共生を選び、今は再生の道を歩んでいる。計算式を送る……これが、心ある科学の結晶だ。カイエン、お前も頑張れよ……』


 モニターの端に、ドームのスーパーコンピュータですら数十年かかるであろう……複雑な大気浄化のアルゴリズムが、滝のように流れ込んだ。


 

『……こちらは惑星イオ。ファズです、聞こえますか! 地球テラの人たちに伝えてください。鉱石一つ取っても、そこに敬意がなければ、ただの石なのです。長老が、これから……地殻を鎮めるための共鳴データを中継します!』


 

 宇宙各地でアクアと絆を結んだ星々が、次々とその独自の英知を、テラ、つまり地球の……ドームの冷たいシステムへと直接叩き込んでいく。


 それは、アクアの心と言葉による説得を拒んだ地球人たちへの、宇宙から生命の証明という抗議に他ならなかった。


 

「な、なんだこれは……。リーフ? イオ? 我々の知見では、存在しないはずの惑星から、これほどの高等技術データが……」


 バルガスが狼狽してる間に、圧倒的なデータと高度な技術に押し流されそうになっている。


 

 カイエンは、隣でより一層強く輝き始めたアクアの瞳を見つめた。


 彼女は今、一人ではない……背後には、彼女が繋いできた全宇宙の仲間たちの想いが、光の帯となって支えているのだ。


「バルガス、分かるか……これが答えだ。宇宙は、地球を諦めていない。何とか救おうとしているんだ。だが、それを受け取る権利があるのは……機械や技術ではなく、心を大切にできる者……地球人だけなんだ!」


 

 ドームの壁が、宇宙から降り注ぐ情報の熱量に震えていた。


 断絶していた地球と宇宙の惑星らが、呼応し始めたのだ。


 気体生物のアクアという細く、強靭な心の糸に……他の惑星から数々の糸が撚り合わされて、今、強く結び合わされようとしていた。



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