第七十六話 繋がり
ナギが通信を中継すると、ノイズの遠くから懐かしい声が聞こえてきた。
『はい! こちら惑星イオ、派遣教師団のファズです。あっ……この識別信号は、テラ(地球)!?……ということは、まさかカイエンとアクアですか!?』
カイエンが口を開くより早く、アクアが嬉しそうに身を乗り出した。
「ファズ! 私よ……アクアよ。久しぶりね!」
『おぉ、アクア…… びっくりしましたよ。次々と惑星の困難を解決しながら旅してるって……噂は本当だったんですね!』
『あ、アクアだ!やった〜!僕にしゃべらせて!』
ファズの声に混じって、可愛らしい声も聞こえてきた。
キラリが飛び跳ねているのか……『パチャパチャ、ポチャポチャ』と液体の音も聞こえてくる。
『アクア! 今、どんなところにいるの? お花はいっぱいある? お空はイオより広いの? すごいなぁ、いつかアクアみたいになりたいな……この宇宙のお星さまを全部見て回りたいな。僕の夢なんだ!』
「ええ、キラリ。ここの空はとっても広くて、夜は星がこぼれ落ちてきそうなのよ……いつか、キラリと一緒に見られるように、私、頑張るわね」
無邪気なキラリとの会話に、アクアの心が温かく揺れる。
カイエンは、その微笑ましいやり取りを複雑な表情で見守っていた。
やがて、ファズの声が真剣なものに変わった。
『……キラリ、少し向こうで遊んでてくれるかい。カイエン、アクア……こんな遠くに通信するってことは、ただの世間話ではないですよね。ちょっと待っていてください……すぐに長老に代わりますね』
通信の向こうで、深く重みのある溜息が聞こえた。
イオの長老の声だ。
『……アクア、よく連絡してくれたの。この通信が安定する前に、ナギからの……先に送られてきたデータをこちらでも照会してみたんじゃ。恐らく、お前たちが今立っている場所、そして石板は、テラが宇宙に向けて救難信号を発生させるための装置じゃよ』
「テラが?」
「宇宙に向けて……って?」
長老が放った予想外の言葉に、アクアとカイエンは、顔を見合わせて尋ねた。
『そうじゃ、その石に刻まれているのは、地球にやって来た生物が残していったものじゃろう』
「やって来た生物が……って?」
思わずアクアの言葉が震えた。
長老が言うには、人類が発生する前の地球には、いくつかの惑星から視察に訪れていたのだという……そう、液体生物や気体生物たちが。
地球の環境が彼らとは違い過ぎて移住は断念した。
だが、彼らはずっと、地球の生命を見守ってきたのだ……と言った。
そして、石板に刻まれた文字よりも……石そのものが重要なのだと……。
『ふむ……。やはり……起源の石のようじゃな。宇宙起源からの記憶を持っておる……希少な石じゃ。それらは、宇宙に散らばってしまった。しかも、今も形を保っているのは、ごくわずか……』
アクアは、咄嗟に胸のペンダントを握りしめた。
「イオで偶然見つけたこの(ペンダントの)起源の石と同じものが……この石板も?」
『そうじゃ……かつて地上の全生命が死に絶えたと思われていたテラを静かに見守っておったのじゃろう。そして、今なお残る再生のための唯一の方法を残していた……そんな生物がおったということじゃな』
アクアが胸に手を当てたまま、長老の言葉に静かに応えた。
「その生物は、他の生物……つまり、生命の無限に広がる可能性を信じていたのですね。あえて手を出さず、見守り続けた……」
『そうじゃ、手出しや口出しすることは簡単なことじゃが、見守り続けるとは……。更に、その方法が起源の石にしたとは……。我らイオの民も、その伝承をただの夢物語だと思っておったが……そんな希望の可能性が……本当にあったということじゃな』
衝撃の事実に、二人は息を呑んだ。
アクアは、真剣な表情で……通信の向こうの仲間たちへ、そしてかつて自分が関わった他の惑星の生命たちへと思いを馳せずにはいられなかった。
「長老さま、ありがとうございます。私、他の惑星の友人たちにも連絡を取ってみる事にします。私たちが繋いできた命が、この地球で一つになるかもしれない……そう思うんです。また必ず、連絡をします!」
アクアが通信を切った後、夜の森に暗闇と静けさが戻った。
だが、先ほどまでの絶望的な闇ではない。
そこには、遠い宇宙から降り注ぐ……確かな希望の光が差し込んでいた。




