第七十五話 月光の石板
太陽が完全に沈むと、外界はドームの中では、決して味わえない……深淵の闇に包まれていった。
光るものと言えば、天上のこぼれ落ちてきそうな星々と雲の中に隠れている月くらいだ。
カイエンは、ドローンのサーチライトを点灯させ、周囲を慎重に照らす。
「……ガス、足元に気をつけろよ。ここらは石が崩れていて、かなり不安定だぞ」
「ええ、私は空中だから大丈夫よ……それよりもあなたの方こそ。でも、ねぇ……見て。カイエン……綺麗な月が出てきたわ」
雲の切れ間から、外界の巨大な月が姿を現した。
その青白い光が、ある角度で巨石の表面に反射する。
数本の反射光が複雑に屈折し、重なり合いながら、蔦に覆われてひときわ深く崩れた一点を、ピンポイントで射抜いた。
そこには、地面に半ば埋もれるように、一枚の石板が顔を覗かしていた。
「……何かあるぞ」
カイエンは、急いで石板に絡みついた蔦をナイフで払い落としてみた。
現れたのは、表面が緑色で、風化が進み判読不可能になったシロモノだった。
「酷いな……。文字か図形のような跡はあるが、朽ちすぎていて……こりゃ、お手上げだな」
今度は、アクアが石板の傍らに降り立ち、その表面をそっと撫でるかのように手を伸ばした。
「でも、私のペンダント(起源の石)が……さっきから、時々震えているの。ここには、何か……大切なことが刻まれているんじゃないかしら……」
カイエンは、眉間にしわを寄せながら、石板を多角的にスキャンし……その転送したデータをナギが解析してみた。
『残念ながら……表面の劣化が相当ひどいわね。解析装置の方も、データ不足や不明瞭だから、エラーしか出ないわ……』
「そうか……駄目か。石板……か。確か、こういう古い記録に詳しい奴……誰か居たよな?」
「詳しいって……長老さまやリーフのシグマ、他にもたくさんいるわよ」
ひとしきり頭の中で考えた末、カイエンはスーツの通信機能を最大出力に上げ、待機中のナギに回線を繋いだ。
「ナギ、中継を頼む……」
『えぇ、分かったわ。どこに繋げばいいの?』
「ちょっと迷ったが……とりあえず、イオを呼び出してくれないか。ファズの鉱物知識や知恵者の長老なら、この石の存在を識っているかもしれない……」
ノイズ混じりの通信音の向こうで、懐かしい声が響くのを待つ。
カイエンとアクアは、無言で月光に照らされた石板をじっと見つめていた。
ドームの外にあるこの古代遺跡が、自分たちの旅の終着点へと繋がっていることを願いながら……。




