第七十話 急ごしらえ
荒れ狂うモニターの波形を切り裂くように、聞き覚えのある……しかしどこかノイズの混じった落ち着いた声だけが管理室に響いた。
『……ナギ、あまり大きな声で呼ばないでくれ。これでも今、新しい感覚を持つ知性の核を再構築している真っ最中なんだよ。それにしても……予定より、少し早すぎる目覚めだがね』
「クロノス!」
カイエンの叫びに、青色の光が微かに揺れる。
しかし、その光は以前のような完璧なものではなく、欠けたデータを必死に補正しているような危うさがあった。
『カイエン、アクア……挨拶は後だな。ナギ、よく聞くんだぞ。システム全体を統括するAIが全てリセットされたせいで、今の私は、この巨大なシステムの隙間を素手で埋めているような状態だ……分かるか?』
『どういうこと? リセット後は、あなたが完全に掌握したわけじゃないの?』
ナギの問いに、管理室のメインコンソールが激しく火花を散らす。
『ああ。悪意のプログラムを止めるには、全ての人工知能を停止させる必要があった。つまり、今の私も含めてだ。私が深層に隠れた時、悪意の知性の破片も残ったはずだ。その破片を叩く必要がある。だが、これだけでは足りない。……博士!』
クロノスの声が、呆然と立ち尽くす博士に向かって飛ぶ。
『そこにある電源の金属レバーを、私の指示に合わせて切ってくれ。デジタルな処理だけでは、この暴走は抑えきれない。物理的な……人間である、あんたたちの手が必要なんだ!』
博士は一瞬の躊躇の後、老骨に鞭打って、壁に備えつけられた古びた金属レバーにしがみついた。
「……信じられん。デジタルのAIが、我々に助けを求めるとは! よし、指示をくれ!」
『左の第3バイパスを全開に。ナギ、そこからエネルギーを逃がして! カイエン、君のスーツの出力をこのコンソールに同調させてくれ。私の演算に、君たちの生命を同調させるんだ!』
上空のナギの電子演算、
深層で踏ん張るクロノスの意志、
博士たちのアナログな操作、
そしてカイエンとアクアの想い。
バラバラだった断片が、
今、
一つの力となってドームの崩壊という名の危機を押し戻し始める。




