第六十六話 混乱
異星人区画を抜けた先で、カイエンたちが目にしたのは、かつての……秩序あるドームの崩壊した姿だった。
中央居住区へと続く広場は、機能停止した他のドームからの移住者であふれ返っている。
仮設テントやコンテナが、通路にまで所狭しと並んでいた。
「……これが、今のドームの真実なのか」
カイエンが絶句する。
人々の顔には疲労と焦燥が張り付き、至る所で怒鳴り声や、出所不明の噂が飛び交っていた。
「外の世界で巨大な嵐が起きているらしい」
「いや、物資運搬の連中が食料を隠しているんだ」
「テラのAIが復活して、不適合者を排除し始めるぞ」
無根拠なデマが恐怖を煽り、ドーム内の空気は……違った意味で、外界の嵐よりも険しく淀んでいる。
『カイエン、周囲に気をつけて。群衆のストレスが限界値を超えているわ。最新モデルのスーツを着たあなたは、彼らにとって絶好の標的にされかねないんだから』
ナギの警告が飛ぶ。
カイエンはスーツの出力を最小限に抑え、アクアを庇うように人混みの端や隙間を進んだ。
その時、物陰から一人の少年が飛び出してきた。
少年は、カイエンのスーツに触れようとして、その独特な温度で驚いたように手を引っ込める。
少年の耳は、わずかに尖り、肌にはうっすらと異星の紋様が浮き出ていた。
カイエンと同じ、かつての銀河交流時代に生まれたハーフの子供だった。
「ねぇ……お兄ちゃん、その服……外から来たの?」
少年の瞳には、大人たちの憎悪や恐怖とは違って、純粋な憧れが宿っていた。
「ああ……君、管理室がどこか知っているか? このドームのシステムを守ってるか、預かっている人たちに会いたいんだ」
少年は、周囲を警戒するように見回すと、『こっちだよ』というように無言で手招きした。
「大人たちはみんな……外は死の世界だって言ってるよ。でも、物資運搬の人たちが持ってくる水は、ドームの再利用水よりずっと美味しくて、力強い匂いがするんだ。僕は知ってるよ、外にはまだ大切な何かがあるんだって」
少年の案内で、カイエンたちは混乱が続く居住区の裏道を抜け、ドームの中央部にある管理室へと向かう。
その背後で、ナギは再びあのノイズを感知していた。
『……また?何だか……この混乱に乗じて、誰かがシステムの優先順位を書き換えているみたい。これって……まるで、このパニックを歓迎しているみたいだわ……』




