第六十五話 静寂と沈黙
巨大なゲートが、重々しい音を立てて閉じられると、外界の荒々しい風の音は完全に遮断された。
カイエンとアクアの目の前に広がっていたのは、驚くほど整然とした、しかし生気を完全に失った無機質な街並みだった。
「……ここが、ドームの中」
カイエンが呟く。
かつてテラが銀河のハブとして機能していた頃、このエリアは多様な星々の住人を迎えるための異星人特別居住区もあった場所だ。
道の両脇には、重力に敏感な種族のための浮遊歩道や、逆に高重力惑星の住人が好む極厚の石造りの建築が並んでいる。
重力を大・中・小と区画ごとに完璧に制御し、異なる惑星の環境をパッチワークのように繋ぎ合わせていた……テラの全盛期を象徴する場所だった。
しかし、今はそれらのほとんどがエネルギーが断たれ、冷たい静寂に沈んでいる。
「誰もいないわね……。きっと賑やかだったはずなのに」
アクアが、過去の街並みを想像するように、暗闇の中に佇む尖塔のオブジェを見上げた。
かつては、その塔も光を放っていたが、今は埃を被り、ただの影としてそこに立っている。
『カイエン、アクア。聞こえる? 居住区のメイン・グリッドにアクセスして、最短ルートを割り出すわ』
上空のナギからの通信が、耳元のレシーバーに響く。
『……ん? おかしいわね。この区画、完全に停止しているはずなのに、システムの深部で妙な信号が跳ねているわ。古いマニュアルデータの断片かしら……』
「ナギ、不具合か?」
『……いいえ、ただのノイズだと思うわ。テラの残滓が古いサーバーの中で空回りしているだけでしょう。気にしないで、先を急いで。そこを抜ければ、人間たちの住む中央居住区よ』
ナギはそう言って通信を切ったが、その天才的な直感の端に、かすかな違和感が引っかかっていた。
それは、人間が手動で古いシステムを動かしているような無骨なノイズではなく、もっと計算された……何かが混じっているような、不自然な波形だった。
二人は、過去の面影を宿しながらも冷たく凍りついた街並みを、静かに通り抜けていく。
ドームのさらに奥深く、この箱庭のようなドームを守り続ける……管理者たちの元へ向かった。
その二人の歩みが、ドームの静かな空気を波立たせるための最初の波紋となっていく。




