第六十二話 軌道上での再会
ドリフターは、その頑丈な機体に見合った轟音を響かせ、垂直に上昇を開始した。
重力制御が不安定であっても、カイエンが長年信頼してきただけあって、地球の重い大気を易々と切り裂いていく。
だが、操縦桿を握るカイエンの表情は険しかった。
(……何かが違う。俺が子どもの頃過ごした……テラに支配されていた頃の、あの計算され尽くした空じゃないのか……)
かつての地上は、全てが管理され、摩擦すら最小限に抑えられた秩序の中にあった。
だが、今の地球は、濃密な湿気や不規則な気流、そして逃れようのない強い重力が、襲いかかってくる。
支配から解き放たれた……この星本来の重みに、カイエンの感覚はまだ追いついていなかった。
カイエンとアクアが着ているのは、惑星イオ製の最新型保護スーツだ。
銀河でも屈指の堅牢さを誇るイオの技術をもってしても、この地球本来の環境下では、各部の関節が軋み、エネルギー消費の激しさを告げる警告音が鳴り止まなかったのだ。
「くそ、イオの最新モデルが、たった数分で音を上げやがった……」
隣では、同じくイオ製スーツに守られているはずのアクアが、素粒子が乱れて構造を維持できず、霧のように薄くなっていた。
大気圏を突破し、漆黒の宇宙へ踊り出ると、そこには惑星エアの紋章を掲げた白銀の宇宙船が待機していた。
『ドリフター、捕捉。ドッキング・マニピュレーター作動。そのままリラックスしてなさい』
ナギの声と共に、ドリフターは吸い込まれるように格納庫へと収まった。
ハッチが開くと、そこにはイオの無骨な機能美とは一線を画す、流麗で高度な惑星エアの科学結晶が広がっていた。
ナギが、自身の設計した最新の強化外骨格を軽やかに響かせて駆け寄ってくる。
「アクア! カイエン! ……やっぱりイオのスーツじゃダメだったみたいね。あそこは、鉱物や物理的な強さには詳しいけど、素粒子レベルの環境適応に関しては……私たちエアの科学技術の足元にも及ばないんだから」
ナギは毒づきながらも、手早くアクアに素粒子安定化パルスを噴射した。
「……あ……、ナギ……」
アクアの体が、かつて一緒にいた頃のような、弾むような虹色の光を取り戻していく。
「アクア、言ったでしょ。私がいなきゃ、あんたはすぐ無茶しちゃうんだから……」
ナギはそう言って、アクアの手を離さないようにと、強く握りしめた。
「さあ、カイエン。あんたにもエア特製の高重力適応キットを組み込んであげるから。今は……本来の生きた地球を歩くには、テラ時代の古い感覚も、イオの最新モデルも通用しないわよ。私たちの技術で、あなたたちのスーツを作り直してあげるわね」




