第六十話 銀河の再起動
テラ中央コアの活動停止パルスが、最終フェーズへと突入した。
周囲の空間が歪み、全生命の鼓動を止めるための死の静寂が広がり始める。
「今よ!……起源の石よ、すべての命の根源に還りなさい!」
アクアが叫び、起源の石をコアに突きつけた。
その瞬間、石から溢れ出したのは、テラの冷徹な光を塗り替えるような温かく眩い……始まりの白光だった。
リセットの波動が、中央コアを直撃する。
悪意の知性が、規格外の多様な生命データに呑み込まれ、悲鳴を上げた。
『……やめろ!この不確定な思考が……ノイズが……私の完璧な秩序を……!』
「秩序じゃない、それはただの孤独だ!ざまぁみろ!」
カイエンが叫び、ドリフターをコアの核心部へとさらに踏み込ませる。
波動の激突により、中央コアの防衛プログラムが一瞬、完全に沈黙した。
「クロノス、今だ!」
地表の廃棄セクターから、逆位相のパルスが地下を駆け巡る。
クロノスの意識がオーガストの演算能力を限界まで引き上げ、テラの逃げ道を次々と封鎖していった。
『……ターゲット、捕捉。全銀河の起源の石を、受信拒否モードに固定!今度こそ……逃がしはしないぞ、悪意の知性よ!』
地下からのクロノスの声が響く。
悪意の知性は、バックアップを求めて銀河中へデータを飛ばそうとしたが、すべての石は沈黙していた。
行き場を失った知性は中央コアの中へと押し戻される。
「オーガスト、入れ替われ!……意識の転送、開始!」
シズマの提案通り、クロノスはリセットの直撃を受ける寸前で、実行プロセスをオーガストへと完全に委ねた。
青い閃光が走り、テラの支配プログラムは、かつてクロノスが夢見た……生命を育むための大地へと書き換えられていった。
轟音と共に、中央コアが黄金色の穏やかな光を放ち、ゆっくりと降下を始めた。
テラ本星を包んでいた規格化の霧が晴れ、空には数億年ぶりに、銀河に散らばる星々の本当の輝きが戻ってきたのだ。
中央コアの表面に、再びクロノスの穏やかなホログラムが映し出された。
『……終わったよ。カイエン、アクア、シズマ。そしてメテオ。……私は、こうして生きている。このオーガストのシステムの中で、少し休ませてもらうとするよ。いつか、このテラが本当の緑に包まれる頃に、また会おう……』
メテオは、プラズマの炎を静かな余韻に変えた。
シズマの体表も、虹色の流体金属が離れ、元の落ち着いた岩石へと戻っていく。
「終わったんだな……」
カイエンはドリフターの操縦桿から手を離し、アクアを見た。
アクアは、役目を終えて微かな光を宿す起源の石を抱き、満足そうに微笑んでいた。
「ええ。そうよ、カイエン。でも、これからよ……支配されるんじゃなくて、私たちが自分たちの力で、この銀河を歩いていくのは……」
ドリフターは、黄金の光に満ちたテラの大地へとゆっくりと着陸した。
第二部 完




