第五十八話 廃棄セクター
ドリフターは、テラ本星の地表付近、廃墟領域の真上に到達した。
かつて旧世代データ集積所と呼ばれたが、現在は使われていない。
しかも、テラの中央コアから物理的に最も離れ、規格化の更新からも見捨てられたデータの墓場のような場所だった。
カイエンは、クロノスが使っていた古い周波数で通信を試みる。
「オーガスト、聞こえるか。……クロノスの善意は残っているよな?まさか……。おい、そこにいるんだろ……」
ノイズ混じりの音声と共に、モニターに何かが現れた。
それは、穏やかだが力強い眼差し……サイボーグになる前の人間の姿……設計者クロノスだった。
『……待っていたよ、カイエン、アクア。そして新たな仲間たち。私の意識は今、オーガストの思考回路と一つになり、この打ち捨てられた古いプログラムの残骸の中に潜んでいる。テラの悪意の知性は常に最新の効率を求めるからな。だからこそ、この無駄な過去の遺物には決して目を向けないのさ』
クロノスの声は、どこか懐かしく、同時に最終決戦を前にしているからか、厳しさを帯びていた。
『作戦は聞いている。だが、一つだけ見落としがあるぞ。悪意の知性は、窮地に立たされた時、自身のデータを銀河の各惑星に散らばる起源の石へと分割してバックアップを取るはずだ。物理的な破壊だけでは、また逃げられるぞ。奴は、いつも逃げ道を確保しているのさ』
クロノスの言葉に、アクアが息を呑む。
「起源の石……石の中に逃げるっていうの……?」
『そうだ。だが、私が設計した原初の塔のプログラムをオーガストが書き換え、逆位相のパルスを流し込めば、石そのものを一時的にデータの受信拒否状態にできる。これで奴の逃げ道は完全に塞がる。ただし、書き換えには、中央コアの防衛プログラムがリセットで混乱する数秒間に、地下から直接介入する必要があるがな』
シズマが静かに問いかけた。
「クロノス、あんたの意識は、その作業の後どうなる?」
クロノスは、オーガストの青い光を背負いながら微笑んだ。
『私は……既に一度、テラの一部として吸収された身だ。このプログラム修正を終えれば、私の意識はオーガストという純粋なAIの糧となる。ようやくこの長い義務から解放されるだろう……悲しむことはない。これは未来のための重大な修正なのだからな』
カイエンは、拳を強く握りしめた。
「ダメだ、クロノス!身体だけじゃなく、今度は意識まで……。お前さんが存在しなくなっちまうなんて、俺は認めないぞ!」
シズマが、冷静に力強く提案する。
「じゃあ、お膳立てはクロノスがして、リセットの瞬間に実行をオーガストと入れ替わるっていうのは、どうかな?」
「いいこと言うじゃないか、シズマ!そうだ、そうすればクロノスの意識は残り、後でオーガストをまたプログラムし直せばいい!」
『なるほど……。計算外だが、その手があったな。ふっ、では全力を尽くすとしよう。どちらにせよ、勝敗はリセット後のわずか数秒間にかかっているからな』
「わかった。そうと決まれば、俺たちが中央コアをこじ開ける。お前たちは手分けして、地下から奴の逃げ道を断て。最後は……頼むぞ、クロノス。必ず生き残るんだぞ!」
『了解した。作戦開始の合図は、アクアのリセット波動だ。……銀河の明日を、君たちに託すよ……』




