第五十五話 流体金属
カイエンは、ドリフターを惑星アモルファスの液体のような霧が濃い地表ギリギリまで降下させた。
機体は不安定な液体環境に抗い、激しい揺れに見舞われた。
「全く、とんでもない揺れだぞ、カイエン!しっかり操縦しろよ」
シズマが、シートに固定されたまま文句を言う。
「分かってる。だが、不安定な霧の中で安定を求めんなよ、シズマ!」
カイエンは、操縦桿をねじり込みながら叫んだ。
「このドリフターは、旧式の頑丈さが売りだ。最新の高性能AIじゃ制御できないさ。必要なのは、この頑丈な船体と、読みの鋭い俺だけさ!」
その言葉通り、ドリフターの年代物の船体は、予測不能に何度もうねる液体金属の衝撃を耐え抜いた。
シズマは舌打ちしつつも、その頑丈さに安堵の息をついた。
「フン。無茶にもほどがある……厄介事を持ち込む天才め」
ドリフターは、液体金属を凝集させた巨大な鏡面体のそばに、辛うじて着陸した。
鏡面体は、機体全体を正確に映し出し、その中心で流動的な波紋が広がった。
その波紋から、一部の流体金属が人間のような女性の姿を形成した。
彼女はルーナと名乗り、その声は周囲の液体の振動を伴い、機内に直接響いた。
「ようこそ(皮肉を込めた挨拶)……規格外の音を響かせた訪問者たちよ。我々の安寧を乱してまで何を求める?」
カイエンは単刀直入に最終作戦を伝えた。
「テラは死なないんだ。悪意の知性となって中央コアに潜み、最終プログラムを起動させた。俺たちは、テラのリセットと再起動のために、お前たちの流体金属の力が必要だ。総攻撃の物理担当として協力してくれ」
ルーナは鏡面体の周囲を見渡し、静かに言った。
「我々の特性は……流動。テラの固定的な規格を破るために、我々は全ての形を捨てることを強いられた。だが、最終作戦の総攻撃とは……具体的に何をしろというのだ?」
アクアが応じた。
「テラ中央コアは、リセット直後に、悪意の知性がデータとして再度の逃走を図る一瞬の隙を生むはずです。その時、あなたたちの究極の形状変化能力とプラズマの物理的な破壊力で、中央コアの物理的な障壁を完全に破壊し、知性の逃走ルートを断つ必要があるんです」
続けてシズマは言った。
「テラの規格化は、全ての物質を固定的な部品としてしか認識しない。お前たちの自由な流動性は、テラの論理の破綻そのものなんだ」
ルーナは、ドリフターとその中の三人の異質なエネルギーを測るように見つめた。
「岩石の血を持つ者、気体の血を持つ者、そして岩石とテラの混血……。お前たちは、テラが最も恐れた……多様性の共存を体現しているな。なるほど……。ようやく我々が力を貸す理由を見つけた」
ルーナは、協力の条件として1つの技術を提供した。
「中央コアの防衛網を突破するために、お前たちは生命と非生命の境界に立つという……我々には、その境界を安定させるための、究極の……流体循環技術がある。それをシズマの肉体に、そしてこの船に組み込もう」
カイエンは驚いた。
「そんな重要な特殊な技術を簡単に提供してくれていいのか?」
「我々の願いは、二度と定住を禁じられない……自由な安定を取り戻すことだ。テラの悪意を完全に根絶できるのなら、この技術など安いものだ」
ルーナは鏡面体を液体の渦に変えた。
「カイエン。テラ本星へ向かう途中、地殻族のブラスマを探せ。彼らはテラに最も近く、物理的な破壊力を持つ。プラズマの居場所は、我々の流体通信網が掴んでいる。この情報と、流体の知恵を持って行け」
ルーナが示した液体地表の渦から、プラズマの隠れ場所を示す座標データと、流体循環技術のプログラムが、カイエンのドリフターの通信システムに直接流れ込んだ。




