第五十四話 辺境の星アモルファス
長老ザンの幻影の隠れ場所を後にし、ドリフターはテラ本星へ向かう航路の途中にある流体金属の異星人が隠れているという辺境の星アモルファスへと針路を取った。
シズマはブリッジで黙って窓外を見つめていた。
長老ザンから授かった生命と非生命の境界に立つ技術は、彼女の岩石星人の純血種としての存在そのものを賭けたものだった。
「テラの悪意は、毎回データとなって逃げ回る……何度も復活再生させてたまるか……」
カイエンが唸るように言った。
「俺たちの戦いは、物理的な戦闘とプログラムの修正、その両方で決着をつけないといけない。まずは流体金属の異星人を見つけ出すことが最優先だ」
アクアは穏やかに返答した。
「先ずは、彼らがどんな規格化の苦しみを味わったかを理解する必要があるわね。彼らの流動的な特性こそ、テラの固定的な悪意を破る鍵になるんだもの」
ドリフターは、惑星アモルファス上空に到達した。
星全体が液体に近い重そうな濃い霧に覆われている。
常に環境が不安定なこの星は、長老ザンによると……流体金属の異星人が液体環境そのものに紛れて隠れているらしい。
「ここでの規格化の呪いは、定住の禁止だろうな」
カイエンがスキャンデータを見ながら、腹立たしそうに言った。
「流体金属の奴らは、固形化も、定住も許されず、常に流動し続けることを強いられているみたいだな。テラは、種族の特性を逆手に取り、彼らの安定を奪った。悪意の知性は、自らの規格を少しでも乱す存在を許さないんだ」
アクアは、起源の石の波動を広範囲に広げた。
「彼らは、常に流動することで、テラの監視システムからは、存在しないもの……環境の一部として認識されているみたい。彼らは、流動し続けることで、自らの多様性を守ってきたのね」
「で、この広大な液体地獄の中から、どうやって流体の共存者を見つけ出すのさ?」
シズマが尋ねると、カイエンは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「流体金属の連中は、体を通信媒体に変えることができるはずだよな。俺のドリフターの通信システムと、この惑星の不安定な電磁波を組み合わせるんだよ。そして一瞬だけ、この星全体に規格化を嘲笑うような不協和音を流す。それに反応する奴が、俺たちの求める共存者ってことよ」
シズマは、驚きのあまり目を見開いた。
「規格化を嘲笑う音……テラにとっても、それは最大級の挑発になるんだぞ!あまりにも危険過ぎる……」
「上等だ。最終決戦のチームは、まず己の意志を示すんだ。さぁ、ガス(アクア)……起源の石の波動を乗せて、多様性の声を流すぞ!」
ドリフターから、惑星アモルファスの液体霧に向けて、カイエンのトリッキーな電子音とアクアの穏やかな起源の波動が融合した……規格外の信号が発信された。
その信号は、惑星全体に広がり、流体金属の異星人の隠れた心を揺さぶる。
次第に、惑星アモルファスの地表の液体のような霧が、ドリフターに向けて複雑な形状を刻み始めた。
それは、単なる電磁波の乱れではなく、高速で変化する文字や図形に見えた。
「来たぞ!」
カイエンが叫んだ。
「反応した!これは、応答だ。彼らのリーダーが、俺たちに会いたいと言っているんだ」
シズマは、その液体地獄の中から、一箇所だけが極めて安定した球体を保っているのを見つけた。
「あそこだ。あの一瞬の安定こそが、彼らが唯一許された……意志の表明の場所だ。行こう、カイエン」
四つの力を束ねる旅は、まだ始まったばかりだ……。




