第四十九話 親子の対話
アクアとカイエンの介入によって、中央広場の緊張は一旦和らいだが、アルゴは冷静だった。
彼は警備の者たちに命じ、アクアとカイエンを異形の調和論者として、集会場の隅にある静かな別室へと隔離した。
「父上は、あなた方を排除するより、隔離して調和の理念を説く方を選んだのね」
その別室に、アルゴの娘リアがやってきた。
彼女は緊張していたが、目には確かな決意が宿っていた。
「あなたは、初めて私の心の中の声を肯定してくれました。でも、私には思い通りに行動できないのです。この星では、調和を乱す者は、生きる場所を失うのだから……」
「生きる場所を失うのは、協調のふりをして心を無くした時よ」
アクアは穏やかに言った。
「あなたの心は、抑え込まれているだけよ。そして、この部屋にいる彼は、それを行動に変える方法を知っているわ」
カイエンがリアを見た。
「お前の親父が作った支配のシステムは、協調性しか想定してねえからさ。俺のようにトラブルを起こす人間が、どう動くかを考えていない……いや、考えられないんだ」
カイエンは、リアにリヴの都市構造図を見せた。
「お前が孤立を恐れるのは、親父の監視と、住民の同調圧力があるからだ。だが、この星の技術は、統一を目指しすぎて、セキュリティがザルだ。俺が仕掛けたバグは、不満を持つ者を一時的に監視の目から隠すことができるようにしたのさ」
「隠れる?」
リアは驚いた。
「そうだ。そして、隠れた場所で、お前と同じように孤独を恐れながらも、本当の意見を持っている人間を見つけろ。お前はただ孤独だったわけじゃない。お前が、リーダーになるんだ。そして、行動に移す技術と、勇気を分け与えてやれ。支配者の作ったシステムを利用して、自由への道をこっそり作るんだ」
リアは、アクアの哲学(理念)と、カイエンの戦術(行動)が一つになった時、初めて自分が何をすべきかを理解したようだ。
「私、やります。でも、父上は……アルゴは、本当にこの星の秩序を守ろうとしているだけなのよ」
その時、別室の扉が開き、アルゴが入ってきた。
彼はアクアとカイエンを避けるように、娘のリアだけを見つめた。
「リア。私の理念を乱す者と関わってはいけないよ。私は、混沌からリヴを守るために、この調和を築いたんだ。私の恐怖を理解してくれるね?」
アルゴは、静かにアクアに向き直った。
「異形の方。あなたは、私たちの調和の裏にある恐怖を理解していません。テラがいなくなった後の無秩序こそが、本当の悪なのです」
アクアはアルゴに深く共感の波動を送った。
「あなたの秩序への渇望は、リヴへの深い愛から生まれている……あなたの恐怖は、私たちも理解できます」
アクアは穏やかに言った。
「ですが、調和とは、あなたの考えだけが正しいと決めつけることではないのではないでしょうか。それは、あなたの意見と、リアの意見……秩序への愛と、自由への愛……という、違う考え方を持ち寄り、その背景にある恐怖や希望を互いに理解しようと努めることが大切だと思いませんか」
アクアは、リアを見た。
「娘さんの意見を排除されるべき欠陥として否定するのではなく、その自由への渇望という考え方を知ろうと努めてくださいませんか。理解しようと努める心こそが、リア……そしてリヴの住民を真の支配から救う鍵になるはずです」
アルゴは、娘の自由を求める瞳と、アクアの理解の波動に挟まれ、初めて自分の支配が歪んだ愛だったことに気づき初めて、言葉を失っていた。
アルゴの支配は、愛と恐怖によって築かれたものであり、それを打ち破るには、互いの理解への努力が不可欠ではないのかと……。




