第四十三話 説得と誤解
カイエンは、最も危険だが最短で到達できる航路を選択した。
それは、テラ宙域の近くに存在する小型ブラックホールの重力圏に極限まで接近し……その強大な時空の歪みを利用してワープ回廊を短縮するという、命がけの航法だった。
ドリフターは、カイエンが得意とする短縮ルートを頼りに、予想よりも早く惑星リーフ宙域に到達する。
ドリフターを着陸させると、アクアたちはすぐに地上の居住区へと向かった。
テラの支配から解放されたはずの街は、恐怖と不信感で満ちていた。
地殻族のメテオが、数名の仲間と共に、普段は出ない地表に出てきていた。
彼らは、青白く輝くプラズマの体を持ち、地上住民(固体生物)に対し、懸命にテラの情報が虚偽であると訴えていた。
「皆、落ち着くんだ!テラの言う……多様性は悪……というのは嘘なんだ!みんな、真実を見よう!目を覚ますんだ!」
メテオは、プラズマの振動と光で呼びかけていた。
しかし残念なことに、地上の住民たちは、メテオたちの予測不能な輝きと振動する声が、逆に怯えを増幅させているようだ。
「あいつらを見ろ!奴らこそが混沌だ!異形が我々を攻撃しに来たに違いない!」
「そうだ、騙されるもんか!」
その時、一人の住民が感情的になって強くメテオを罵倒し始めた。
メテオは、その住民ではなく、テラの洗脳の根深さに激しい怒りを覚えた。
そして……地底で培ってきた強力な感情を制御できず、全身のプラズマが強く燃え上がってしまった。
怒りの感情によって、メテオのプラズマ体の一部が分離し、誤って住民の足元へ投げつけられた。
それはメテオにとって、訴えを視覚的に強調する衝動的な行為だったが、住民にとっては、プラズマによる攻撃以外の何物でもなかった。
「うわぁぁぁ!攻撃されたぞ!地底の怪物どもが我々を襲ってきたぞ!」
住民たちはパニックに陥り、一斉にメテオたちの前から逃げ出した。
「ちくしょう!最悪だな……これじゃ、逆効果だろ!」
この事態を注視していたアクアとカイエンは、状況が悪化する様子に焦りを覚えた。
ちょうどそこに、シズマが駆け込んできた。
「もぉ、何やってるのさ。カイエンは厄介事を引き寄せる天才だね……せっかく支配が終わって、私はアジトでゆっくりしたいのにさ」
「えっ、俺たちは何もしてねぇよ……見てただけで……」
カイエンの言い分に聞く耳を持たずにシズマが指示する。
「はいはい……。先ずは、地殻族は感情のエネルギーが強すぎるんだ!外部の混乱を鎮めるには、心の共感が必要だ!感情のままにプラズマを投げてはダメなんだよ!」
アクアは、シズマとカイエンを見て言った。
「はい。では私たちで、地殻族と住民、双方の誤解を解きましょう。シズマは、メテオを説得してください」
シズマは、メテオのプラズマ体に近づき、冷静に話しかけた。
「メテオ、君の怒りはわかる。でも、住民の多くは恐怖でしか物事を見ていないのさ。君たちのエネルギーは、今の彼らには悪意にしか映らないんだ……堪えてくれないか」
シズマの言葉によってメテオは、自らの暴走が事態を悪化させたことに気づき、悲しみながらプラズマの輝きを弱めた。
アクアは、起源の石の波動で、地殻族の感情エネルギーの真の穏やかさを住民に伝える……共感のバリアを一時的に展開した。
住民たちの恐怖が和らいだ頃、カイエンは地殻族の協力を求め、濃密な地熱エネルギーの塊を手に入れた。
リーフの内部抗争は、どうにか一時的に収まり、住民の一部は真実のデータを理解し始めたようだ。
「良かった……何とか落ち着いたわね」
「冷静に話を聞くとか、正偽を判断出来るやつは居ねえのか?」
アクアとカイエンが話していると、メテオがやって来た。
「考えたんだが……地上住民への指導者派遣を検討してくれないかな?」
「そりゃ、いい考えだな」
「では、ゼニスへの教師団の派遣は、私たちがイオと協力して進めましょう……待っていてください」
カイエンとアクアが同意し、続けてシズマが言った。
「ドリフターの強化も完了させておいたからな。お前ら二人は急げ、次に向かうべき惑星が待っているんだろ」
カイエンは、地殻族のエネルギーがドリフターの船体を包み込むのを待って、操縦桿を握り締めた。
「テラに心を乗っ取られた星は、まだ山ほどあるんだな……さぁ行くぞ、ガス」
二人の旅は、リーフでの誤解と共感を経て、力強く再開された。
【ドリフターの地熱ブースト航法(SF設定)】
・航法の原理: ブラックホールの巨大な質量が生み出す、時空の強烈なねじれ(曲率)を計算し、その重力の渦を利用して空間の近道(ワープ回廊)を一気に通り抜ける。
・ 短縮率: 通常のワープ航法で数週間かかる距離を、わずかな時間(数時間レベル)に短縮可能。短縮率は、ブラックホールへの接近度に正比例する。
・危険性: 時空の曲率が急激に変化する場所では、船体に潮汐力が極端に作用し、機体が引き裂かれる危険(物理的負荷)が常にある。
・地熱ブーストの役割: 推進力としてだけでなく、激しい時空の歪みに直面した際の緊急回避や、曲率を力任せに引き裂くターボとして機能する。




