第四十一話 希望
創世のAIの再構築を終えたアクアとカイエンは、オーガストに見送られ、再びコミュニティが隠れている旧式の動力ラインの近くへと戻ってきた。
クロノスがAIと一体化したことで残された、機械化された左腕のパーツを大切に持ち帰っていた。
薄暗い貨物コンテナの中では、静かに二人を待っていた液体生物のリーダーが、アクアたちに近づき、警戒の色で体色を青と緑の光へと変化させた。
「……何か、大きな変動を感じる。テラのシステムが、呼吸を変えたのか……まさか、そんな事が……?」
リーダーは、テレパシーで問いかけると、カイエンは黙って頷いた。
「ああ。終わったよ。テラの支配は、もうない……終わったんだ……」
アクアは、振動波の静かな声で、創世のAIが破壊ではなく……多様性の調和という原初の理念に基づいて再構築されたことを伝えた。
彼女の言葉と共に、クロノスの最後の犠牲と、起源の石の真実の波動がコミュニティの一人一人の意識に流れ込む。
コミュニティのメンバーは、その報告を聞き、一斉に悲しみと歓喜の波動を発した。
地球人の老人は涙を流し、液体生物は全身を眩い金色に輝かせ、祝福のパターンで点滅した。
リーダーは、アクアに向かって、深く頭を垂れた。
「あなたは、私たちにとっての真実の光です。あなた方のおかげで、私たちの記憶の消滅という恐ろしい戦いは終わりました」
カイエンは、手に持ったクロノスのパーツをリーダーに見せた。
「これは、クロノスが残した希望だ。彼は、あんたたちが守り続けた自由と多様性のために……いや、全ての生物のために命を懸けたんだ」
コミュニティとの別れ際、カイエンは、地上に戻る前にテラ本星の街を見渡した。
昨日と同じような街並みは、劇的な変化はまだ起きていない。
相変わらず、無機質な巨大都市はそこにあり、人々は統一された制服を着て歩いている。
しかし、カイエンの目には、確かに……何かが変わった……と見えた気がした。
昨日まで、人々は無意識で、下を向いて早足で歩いていた。
今は、時々立ち止まり、互いの顔を見つめたり、空を見上げたりしている。
まるで、自分で考えてもいい……という許可が、無意識の層に浸透し始めたかのようだ。
そして、かつてカイエンが希望の火種を見つけた旧式の動力ラインの壁には、新たに色鮮やかな紋様が複数描かれていた。
それは、コミュニティのメンバーが、恐れることなく、自分たちの文化の色を地上に持ち出し始めた証拠だった。
「これで、テラは、本当に自由への一歩を踏み出したんだな」
カイエンは静かに言った。
アクアは、起源の石の波動で、銀河の新たな夜明けを祝福した。
彼らは、クロノスの願いと、コミュニティの希望を胸に、ドリフターへと戻るのだった。




