第三話 出会い
『もしかして、これって。まさか……言葉が通じない……スーツに翻訳機が付いてないってことなの⁈……誰もいないの?どうしよう……』
どうやらアクアは迷子になったようだ。行き先を尋ねたくても言葉が通じない……しかも、ここには返事をする存在や生物自体がいないのかもしれない。アクアは空港でのやり取りを思い出してみる……。
『空港で出会った液体生物さんとは、普通に会話が出来たのに……。そうだ、忘れてた!テレパシーが使えるかって聞かれたんだった』
思い出した彼女は、今度は自身の振動波の声ではなく、テレパシーに変えて同じ質問をしてみることにした……ナギの特訓のおかげだ。
『ここは……どこですか?誰か…いませんか?』
アクアのように気体生物のコミュニケーションは、通常振動波を使う。しかし古代宇宙で全ての生物はテレパシーを使っていて共通言語であったのだという。その事をナギから学んだアクアは、初めてテレパシーでの会話を試みたのだが……。
「これも、だめか……どうしよう」
アクアが小さくため息をついた、次の瞬間。
『よそ者め!』
『長老へ連絡!』
『何が目的だ?』
と、数え切れないほどの思考の断片が、大きな波のように一斉にアクアの頭に押し寄せた。テレパシーに不慣れなアクアには、その聞き取りと意味の確認が難しい。思いがけない反応に驚きつつ、頭が痛くなりながらも、アクアは集中してテレパシーを感じ取ってみる。
どうやら、アクアへの返事をするものと、よそ者が侵入しているという仲間同士の連絡がテレパシーでやり取りされているようだ。
その時、突然
『静まれ!』
と大きくはっきりしたテレパシーが響いた。その途端、数々の応答していたテレパシーがピタッと止まった。シーンと静まり返ると再度テレパシーが響いた。
『その場で待て』
彼女の振動波に直接的な応答がない事で、近くに気体生物はいないと分かる。今は、テレパシーで会話できる生物の存在があると理解できた。アクアは自分が独りぼっちではないと分かりほっとした。
しばらくすると……カタカタ、ジリジリと音を立てて足元の大地が揺れ始めた。
アクアは、危険が及びそうになったら直ぐに上昇しようと地面を注視し身構えた。
ひび割れてきた地面や岩の隙間から、ゆっくりと深い緑色の液体があふれてくる。地面上の水たまりのような液体が今度は立体的に形が変わり始めた。アクアの身長よりも高くなった時、液体生物の変形再生が完了したようだ。
「わしはこの地で長老をしておる。困った事があるのかな?」
と、先程のテレパシーの主であろうその液体生物が、アクアのように振動波を使ってしゃがれた声で尋ねてきた。
【液体生物の会話方法】
・音や声は使わない。
・部分的に身体の色を変えたり、点滅の時間や回数によって会話する。
・身体の色を自在に操れる液体生物だけができる独特の会話方法。
アクアは、その液体生物がテレパシーではなく振動波で話しかけてきた事に驚き、
「えぇ~⁇……液体生物も振動波で話せるの?」
と、つい思った事が口から出てしまった。アクアは、はっと我に返り
「あっ、失礼しました。長老さま」
アクアは、深々と頭を下げて謝罪した。
長老は目元の深く刻まれたシワを寄せて『大丈夫』というように手を振りながら、優しくアクアに向かってウインクした。
先程までの不安と緊張の糸が途切れたアクアは、溢れてきそうな涙を堪えて長老に空港での伝言と状況を説明した。
長老は、時々うなずきながら黙ってアクアの話を聞いてくれた。話し終えたアクアに長老は、
「事情はわかった。わしについてきなさい」と、液体の足を上手に使いながら、何処かに向かって歩き始めた。
アクアは慌てて空中を移動しながら、前を歩く長老の後を追った。しばらくすると川が流れる小高い丘があり、木々の間にはまばらに小さな家も見えてきた。
先程のゴツゴツとした岩石やザラザラしたホコリっぽい空気から、緑豊かな澄んだ空気に変わる……アクアは心が落ち着いてくるのを感じた。




