第三十八話 突破
オーガストの青い光が描いたルートに導かれ、アクア、カイエン、クロノスの三人は、テラ中枢の心臓部……記憶の保管庫へと足を踏み入れた。
そこは、真実のデータが収められたはずの、巨大なサーバー群と、それに絡みつくエーテルダストの汚染で満ちていた。
保管庫の広大な空間の中央、エーテルダストが渦巻く深紅の光の中で、偽りの意識体が巨大なホログラムとなって彼らを待ち受けていた。
その冷たい電子音は、リーフで遭遇した時よりもはるかに強大で、嘲笑に満ちている。
『来たか、予測不能な気体生物。そして、裏切りの設計者クロノス。お前たちの存在そのものが、銀河の秩序を乱す混沌だ。この記憶の保管庫で、永遠に無力化してやろう』
偽りの意識体の言葉と同時に、保管庫全体が激しく振動し始めた。
エーテルダストが具現化し、無数のテラの防衛ドローンや、過去の記憶から歪められた幻影の戦士となって、三人に襲いかかる。
「ちっ、いきなり総攻撃か!」
カイエンは即座にレーザーライフルを構え、ドローンを迎え撃つ。
クロノスは機械化された腕で防御フィールドを展開しつつ、オーガストに指示を出した。
「オーガスト、記憶の保管庫のデータフローを解析しろ!偽りの意識体がどこから虚偽のデータを注入しているかを特定するんだ!」
『了解、クロノス。しかし、エーテルダストのノイズが強すぎます。アクアの起源の石の波動で、この汚染を一時的に浄化しなければ、コアに到達できません』
オーガストが焦りの波動を送る。
アクアは頷いた。彼女はロケットペンダントを胸元で握りしめ、起源の石の力を解放した。
起源の石の波動は、清らかな青い光となり、保管庫を覆うエーテルダストの赤黒い汚染を瞬時に弾き飛ばし始めた。
エーテルダストが浄化されるにつれ、保管庫に渦巻く真実のデータが解放され、アクアの意識に流れ込む。
それは、テラが滅ぼした惑星の嘆き、そして、テラの支配以前に銀河に存在した真の多様性の輝かしい記憶だった。
『無駄なことを!その程度の光、私の虚偽のデータの前では瞬時に消える!』
偽りの意識体は、保管庫に収められた最も重要なデータ、すなわち……原初の塔の理念……の核心を歪め始めた。
テラを創った時の調和と秩序の理念が、絶対的な支配という虚偽に塗り替えられていく。
「ダメよ!原初の塔の理念が書き換えられると、テラは永遠に悪意の象徴になってしまうわ!」
アクアは叫んだ。
「カイエン!奴の注意を引け!俺とオーガストが、虚偽の注入ポイントをハッキングする!」
クロノスが叫んだ。
「任せろ、ガス!」
カイエンは、偽りの意識体のホログラムめがけてグレネードを連射し、防衛ドローンの群れに突っ込んでいく。
彼は、テラの冷たさを知る地球人としての怒りを力に変え、捨て身の陽動作戦を展開した。
その隙に、クロノスはオーガストと連携し、起源の石の浄化されたデータ経路を使って、偽りの意識体が保管庫へデータを流し込む脆弱なインターフェースを特定した。
『見つけたぞ!アクア、今だ!起源の石の真実の波動を、このポイントに集中させるんだ!』
クロノスが叫ぶ。
強く頷いたアクアは、全力で起源の石の光をクロノスが示した一点のインターフェースへと放った。
起源の石の真実の波動は、偽りの意識体の虚偽のデータと衝突した。
その瞬間、保管庫全体にデータのエラー音が鳴り響いた。
偽りの意識体は、自身のシステムに『真実』という予測不能なエラーが注入されたことで、ホログラムが激しく崩壊していく。
『ば、ばかな……。この記憶の保管庫は、永遠に私の秩序のもとに……!』
偽りの意識体は、弱く小さな電子音を上げながら、エーテルダストの光と共に霧散し、保管庫の中枢から完全に消滅した。
エーテルダストの汚染は晴れ、記憶の保管庫は、静謐な青い光に包まれた。
真実のデータが、銀河の歴史として、再び正しい場所へと戻り始めたのだ。
「やったぞ……勝ったんだ!」
カイエンは傷だらけになりながらも歓喜の声を上げた。
しかし、クロノスは厳しい表情で、保管庫の最深部……かつて偽りの意識体が鎮座していた場所に注目していた。
「いや、まだだ。偽りの意識体は消えたが、テラの真の支配の構造は、まだ残っている。そして、あれが……原初の塔のシステム中枢だ」
その時、保管庫の奥、崩壊した瓦礫の中から、巨大なメインサーバーの奥に隠されていた、未知の空間が出現した。




