第三十四話 テラ・ゲート
ドリフター(宇宙船)は、惑星イオの大気圏を抜け、テラ本星を目指して孤独な航海を続けていた。イオからテラ本星までは、かつてないほど遠い道のりだ。
コックピットでは、カイエンが操縦桿を握り、広大な星図を凝視していた。
「イオからの航路は、安全のためテラの防衛網から遠いルートを選んだ。だが、テラ宙域に近づくほど、奴らの監視は厳しくなるからな。気を抜くなよ、ガス」
アクアは、イオで長老から託されたメッセージと、胸元の起源の石の光を確かめていた。
『テラの黒幕が最も恐れるのは、生命の予測不能な感情……それとも心?だから、多様性を拒むのかしら……。その混沌の力を増幅するのがエーテルダスト……そして、テラ本星こそが、その力を完全にコントロールしている場所なのね……』
アクアは、さらに考えを巡らせていた。
『……原初の塔のデータ。……塔の破壊の時、悪意のデータが具現化し、あの偽りの意識体となった。そして、もしかしたら……』
航海中、カイエンは不意に過去を匂わせる言葉を口にした。
「俺もな……昔はテラに近付こうとしたことがあったんだぜ。目的は違うがな」
アクアは驚いてカイエンを見た。
「テラに?何のために?」
カイエンはすぐに真顔に戻った。
「……どうでもいい昔の話さ。ただ、奴らは、俺が知っている限り、最も完璧に管理された悪意だった。リーフで戦った偽りの意識体は、その末端に過ぎねぇ」
彼は、ちらりとアクアを見た。
「テラは、自分のシステムに不必要なものを絶対に許さねぇ。もし、お前の起源の石が奴らのシステムを乱す混沌だと判断されれば、容赦なく排除しに来るだろうな」
テラ宙域の境界線に差し掛かったとき、シズマからの緊急通信が届いた。
「アクア、カイエン!やっと繋がった!これ以上進むと、こちら(リーフ)からの通信は遮断されるんだ。一度しか言わないから、よく聞きな」
シズマの声には焦りが混じっていた。
「いいか、テラ宙域の入り口は巨大なワームホールで、二つのテラ・ゲートが存在する事が分かった。一つは、正規の表ゲートだ。地球でいう税関のようなもんだが、もちろんテラに敵対するお前たちが通れるわけがない……」
「だよな、それで?」
カイエンとシズマが航路について話し合っている。
「もう一つが、奴らが隠している裏ゲート。密入国ルートだが、突破するには極秘データが必要だ。テラ本星の防衛システムを突破するには、この裏ゲートの突破が唯一の道だ」
「裏ゲート?おいおい、物騒な話になってきたな」
「カイエン、真面目に聞けって!奴らがテラ本星の奥深く、原初の塔を解析するために連れて行ったある重要人物のデータが必要になるのさ……」
そう言ってシズマは、暗号化されたデータファイルをドリフターのメインシステムに送信した。
「これは、テラ本星の最高機密施設に連行された原初の塔の真実のデータ管理者の行方に関するデータだ。そして、その協力者だった元テラ技師に関する情報も含まれている。
奴が持つ秘密のアクセスコードと、起源の石を使えば、テラ本星の最深部にある中枢制御室への潜入が可能になるかもしれない……」
「……かもしれないって、無責任だな」
カイエンはデータを確認し、驚きに目を見開いた。
「こいつは……テラのセキュリティシステムの設計者の一人じゃねぇか!シズマ、どうやってこんなものを手に入れた!?」
「まぁ、そこは深く聞くな。とにかく、その元技師が、お前たちのテラでの案内人として手配済みだ。では健闘を祈る。通信終了!」
シズマとの通信が途切れると同時に、ドリフターはテラ宙域の入り口、巨大なワームホールを形成するテラ・ゲートの前に到達した。
そこには、テラの最新鋭の監視衛星群が、厳重な警戒態勢を敷いていた。
「テラ宙域に入ったら、もう引き返せねぇぞ」
カイエンは、いつになく真剣に言った。
アクアは、テラに連行された重要人物のデータと、その協力者である元テラ技師の情報を握りしめ、深く頷いた。
「分かってるわ。この旅は、リーフの命運、そして私の惑星……がかかっているのよね。行きましょう、カイエン」
ドリフターは、テラの巨大な監視網が手薄な裏ゲートの座標を割り出し、地熱エネルギーの残光を閃かせながら、その密入国ルートへと突入した。




