第三十一話 準備
アクアとカイエンは、地殻族から譲り受けた濃密な地熱エネルギーの塊を抱え、急いで情報屋シズマのアジトへ帰還した。
格納庫では、シズマがエネルギー塊の成分構造を分析し、カイエンの旧型宇宙船ドリフターの動力炉へ組み込む作業を急いでいた。
「地殻族の技術は驚異的だ。このエネルギーがあれば、テラの防御衛星を強行突破できるだろうな」
カイエンは目を閉じて、エンジンの唸りに耳を澄ませている。
「プラズマの化け物がくれたもんか。皮肉なもんだな……俺の相棒(宇宙船)が喜んでらぁ」
アクアは、改造された船体を見上げ、ふと尋ねた。
「そういえば、あなたの船……この子の名前は何て言うの?」
カイエンは目を開け、少し驚いたようにアクアを見てから、軽く笑った。
「こいつか?相棒の名前はドリフターだ。放浪者って意味だ……俺と同じさ」
「ドリフター……素敵な名前ね」
アクアは、再生された大地の種から得た情報、すなわちルナスとエーテルダストの関係、そして偽りの意識体の支配の波動の正体をシズマに詳細に共有した。
シズマは提供された情報を統合し、思考を巡らせた。
「支配の核を、エーテルダストの力で浄化する……微粒子の調和の力が、奴らの歪んだ意識に効くというのは理に適っている……」
エンジン音に聞き入っていたカイエンが口を開いた。
「テラが作ったものに、単なるなんてものは存在しねぇ。その根深い部分にこそ、奴らがエーテルダストの力を歪ませてまで利用しようとした理由があるはずだ」
シズマが静かに言葉を継いだ。
「テラ(黒幕)は、エーテルダストを最も恐れている……エーテルダストは、生命の予測不能な感情や意識を地脈エネルギーに結びつけ、巨大なカオス(混沌)を生み出す。秩序と管理を至上とするテラの機械知性にとって、それは支配の波動を打ち消す唯一の脅威だろうさ」
「だからこそ……その恐れる力を私が解放するのね」
アクアは、そう言って起源の石を握りしめた。シズマは、古いデータ図面をアクアに見せながら言った。
「アクア、この起源の石について、さらに古代の記録が見つかった。この石は、単なるエネルギー結晶ではない。これは、銀河の生命の多様性を守るために造られた原初の塔と呼ばれる古代の中枢制御装置だ。原初の塔の目的は、生命の多様な波動を増幅し、全銀河を調和させることだった。つまりテラの支配に抵抗するための、最後の砦として造られたものだった」
アクアは、この旅の鍵であった起源の石が、銀河規模の巨大な目的を持っていたことに、深い重責を感じた。
「分かったわ。私がこの力を使うことへの恐怖はない……リーフを解放し、そしてテラが恐れる生命の多様性を、彼らの支配の根源に突きつけてみせるわ……」
「作戦はシンプルだ」
シズマが最終確認した。
「あんたのドリフターでリーフ上空の支配の核へ強行突入。アクアが起源の石を核に同期させ、再生された大地の種で浄化されたエーテルダストの力を解放する。私はここで、テラからの増援をかく乱する……どうだ?簡単だろ」
カイエンは改造されたドリフターのコックピットに乗り込み、アクアを隣に乗せた。エンジンの唸りは、地殻の子のエネルギーで激しい鼓動を放っている。
「いいか、ガス。これでリーフの支配は終わるが、テラ本星に逃げ込んだ奴らの真の悪意を断つには、次の旅が必要になる。これは、そのための最初で最大の賭けだ」
カイエンは真剣な瞳で言った。
シズマはアジトの隠し扉を開き、上空へ向かう発射ルートを確保した。
「行け!リーフの未来は、お前たち二人に託されたぞ!」




