第三十話 大地の種
……「いいえ、カイエン。彼らは逃げたんじゃないわ。私たちの言葉を、そして起源の石が示す真実を、ようやく理解してくれたのよ」……
アクアの言葉が終わるか終わらないかのうちに、周囲の岩壁から地殻族が放つ安堵と協調の波動が流れ始めた。
通路を覆っていた電磁振動が消え、プラズマ体の巨大な人型は完全に消え去った。岩壁は、優しい青い光を帯びて、アクアとカイエンを奥へと誘うように点滅している。
『……侵入者よ……そして、真実の波動を持つ者よ……』
地核の子らの声が、今度は威嚇ではなく、長老の声のような荘厳な響きでアクアの翻訳機に届いた。
『我らの誤解を許してくれ……私たちは、過去の裏切りから、生命の力の波動を恐れていた……しかし、お前の起源の石が示す力は、平安をもたらすもの……大地の種の真実を知らせる時が来た……案内しよう……さぁ、こちらへ……』
カイエンは驚きのあまり、武器を下げたままアクアを見つめた。
「おい、マジかよ……たった数分で、あんな化け物と和解したってのか?」
地殻族に導かれる途中、アクアのスーツの補助スクリーンに、惑星エアで作業中のナギからの緊急通信が割って入ってきた。
「アクア!緊急なの、ごめんね。こっちのラボでの分析結果がやっと出たわ!リーフの地下に存在する微粒子と、それを取り巻く鉱物について、決定的なことがわかったの!」
ナギは興奮した声で、二つの分析結果を告げた。
「まず、鉱石。これの正式名称は、古代の文献によるとルナスよ。そして、地底の岩石やルナスに付着したり、不純物として含まれている微粒子がエーテルダストよ!これが、私たちが今まで鉱物の微粒子と呼んでいたもの……エーテルダストは、本来生命の力を調和させるの……テラ(黒幕)は、ルナスからエーテルダストを採集し、その力を悪用することで支配システムを構築したのよ!」
「ルナスに付着するエーテルダスト……」
アクアは思わずつぶやいた。それは、地殻族が過去に感じた悪意の正体でもあった。
ナギからの情報を受け取った直後、アクアとカイエンは、広大な地下空洞に辿り着いた。空洞の中央には、巨大な結晶状の構造体、すなわち大地の種が鎮座していた。
『ナギと名乗る者の分析は、真実を示している』
地殻族の波動が響いた。彼らは、大地の種の真の役割を明かした。
『エーテルダストは、単なるエネルギー源ではない。それは、生命の意識が持つ力を地脈のエネルギーと同期させ、純粋な波動へと昇華させるための触媒だ』
【鉱物のメモ】
・ルナス:現在でも採掘される鉱石。
・エーテルダスト:ルナスに付着あるいは不純物として含まれる微粒子。本来は生命の力を調和させる触媒。
・大地の種:ルナスと共に採掘されていたエーテルダストの力を増幅する数種類の特別な天然鉱物の総称。
・関係性:エーテルダストと大地の種は同じ場所で採掘されるため、どちらかを探せばどちらかも見つかった。
・現状:テラの過剰な採掘により、大地の種の天然物はすべて失われてしまった(エーテルダストと同様に極めて貴重)。
地殻族は、目の前の結晶構造体を指差した。
『この構造体(結晶)こそが、長い時間をかけ地脈の力で形成・再生された大地の種だ』
そして、エーテルダストの真の力を説明した。
『エーテルダストは、生命の意識が持つ力を地脈のエネルギーと同期させ、純粋な波動へと昇華させるための触媒だ。この再生された大地の種の浄化力で、テラの悪意を打ち消すことができるだろう』
彼らは、再生された大地の種の浄化力で、リーフ上空のテラの支配の核を破壊する必要があることを説明した。
『再生された大地の種は、エーテルダストと起源の石……そして真に調和した生命の心が揃って初めて、偽りの意識体の支配の波動を打ち消す究極の浄化の力を発動させる。その力は、この惑星の上空に位置する、テラの支配の核に向けて放たれる必要がある』
彼らは、エーテルダストが存在する限り、リーフの生命は吸い取られ続けること、そして大地の種の浄化の力が必要であることを説明した。
「よし、それなら……支配の中核を叩き潰すぞ!」
カイエンは決意を新たにした。
『待て、真実の波動を持つ者よ。お前たちの協力への印として、我々からも地脈の守護者の力を貸そう……』
地殻族の波動により、濃密な地熱エネルギーの塊が分離された。これが、カイエンの宇宙船の動力源を超強化するための贈り物となった。
「しかし、テラの奴らはこれで終わりじゃないぞ」
カイエンはエネルギー塊を受け取りながら、アクアに言った。
「ルナスを送り込む支配の核がリーフにあるにせよ、エーテルダストの力を歪ませる根本の悪意は、きっとテラ本星の奥深くにある。この戦いが、真の旅の始まりになるかもしれないな……」




