第二十九話 和解
「いいえ、カイエン。私は、彼らを……彼らの心を信じます」
アクアの力強い言葉は、通路を埋め尽くすプラズマの光の糸を一時的に静止させた。カイエンは戸惑いながらもアクアを庇い続けている。
アクアは、地殻族が自身の生命の力の波動を危険な信号として認識しているという事実に立ち戻った。彼らにとって、アクアの存在そのものが虚言や偽りの象徴なのだ。
アクアは保護スーツの翻訳機スピーカーを切り、胸元の起源の石に意識を集中した。地底で感じた高エネルギーの振動と、石から発せられる光の脈動が、彼女の心臓の鼓動と同期している。
『私の心は、彼らを敵としていない……ならば、この石も敵ではないと証明してくれるはず!』
アクアは、自身の肉体(気体)が持つ生命の力の波動を、あえて制御せず、外部へと解き放った。これは、彼女のスーツのシステムが防御のために抑制していたアクア本来の、最も純粋なエネルギーの放出だった。
その瞬間、アクアの胸元の起源の石が、周囲の地熱エネルギーを取り込むかのように激しく発光した。その光は、プラズマ体の青い電光や、周囲の赤い岩壁の発光を凌駕し、通路全体を眩い白銀の粒子で満たした。
プラズマ体の光の糸は激しく振動し、威嚇ではなく、困惑と苦痛、そして深い悲鳴のような反応を示した。
『う、うわぁ!この、この純粋な波動は……!なぜ、なぜそれを解放する!?我らを……傷つけた者と同じ……いや、違う……この純粋な……力は……!』
地殻族の威嚇の声が、過去の悲劇を思い起こさせるような悲しい慟哭に変わった。その慟哭に連動するように、起源の石から放たれる白銀の光は、まるで共に悲しむかのように激しく明滅し……やがて涙のように震えた。アクアは、石が自身の心の感情と、地殻族の心の痛みを同時に捉え、表現しているのを感じた。
起源の石の光の粒子は、プラズマ体の青い電光に優しく触れるように伸びていった。プラズマ体は、その光に触れられることを激しく拒絶するかのように形を変え続けた……起源の石の光は粘り強く、そして慈愛に満ちた振動を送り続けた。
その時、アクアは感じた。彼らの心に巣食う、深い恐怖と悲しみの根源を……。
それは、遙か昔、地殻の子らが信じた気体生物や生命の力を扱う種族が、彼らの大地の種を悪意を持って利用し、地脈のエネルギーを傷つけ、歪めたという……種族全体の記憶とトラウマだった。
そして、起源の石の光が、その深い悲しみと共鳴し、プラズマ体の記憶の奥底に触れた瞬間、新たな波動がアクアの翻訳機に送られ始めた。
『……おお……なんという……私たちは……誤解していた……』
『……過去の裏切りが……私たちを盲目にしていた……』
『……この波動は……純粋……あの時の悪意は……ない……』
『……許せ……この愚かな……種族を……侵入者よ……』
プラズマ体の声は、威嚇ではなく、深い悲しみと、そして明確な謝罪の念を帯びていた。
「私たちは、あなたを傷つけるために来たのではありません!」
アクアは強くプラズマ体の地殻族に訴えた。
「起源の石は、微粒子がただの資源ではないことを証明しています。それは、生命の力を調和させるための装置です。あなたたちの地脈のエネルギーは、偽りの意識体の支配から解放される必要があります!」
アクアの言葉は、起源の石の共鳴によって増幅され、地底全体に響き渡った。
地殻族のプラズマ体は、次々と岩壁に溶け込み、姿を消した……そして、その場に残されたのは、以前のような威嚇の振動ではなく、深く困惑し、しかしどこか安堵したような、和やかな波動だった。
カイエンは武器を下げ、驚きに目を見開いた。
「おい、アクア……どうやったんだ?あいつら、逃げたのか?」
アクアは静かに答えた。
「いいえ、カイエン。彼らは逃げたのではないわ。私たちの言葉を……そして起源の石が示す真実をようやく理解してくれたのよ……」




