第二十二話 古の採掘場
新しい淡いブルーの保護スーツは、アクアの高速移動能力を格段に向上させていた。重力軽減機能が完璧に作用し、アクアはまるで流れる雲のようにイオの黄色い大気の中を移動した。
以前、磁気嵐の中で危険な不時着を強いられた時とは違い、視界はクリアだ。地表には、硫黄の結晶に覆われたオレンジ色の荒野がどこまでも広がり、その遥か遠方には、古代の火山活動によって形成されたと思われるねじれた山脈が横たわっている。
アクアは、その広大さに圧倒された……テラ宙域の人工的な構造物とは対照的な、生命の力に満ちた(あるいは満ちていた)惑星の姿だったのか……。
しかし、広大さゆえに、目印となるものが少ない。長老から教えられた古の採掘場へ続くはずのルートを外れそうになった……その時、静かに思考に語りかけるテレパシーが届いた。
『……そのルートでは時間がかかりますよ。そちらではなく、右手の山脈を縫うように進んでください、アクア』
『ファズ?……どういう事?』
『ああ、心配無用です……私は今、長老の村の観測ドームにいます。イオの全域地図と、スーツの移動ログを共有しています。他に何か私に出来ることがあれば、いつでも言ってくださいね。私自身の過ちを償うためにも、この調査に全力を尽くします……』
『あなたは操られていただけなんだから、そんなに気にしないで……でも、すごく助かります。ありがとう、ファズ』
ファズの冷静で的確なナビゲーションのおかげで、アクアは広大なイオの地上で迷うことなく、古い採掘場の居住区へと順調に針路を進めることができる。
ファズの指示通りに山脈を越えると、岩肌に掘り込まれた古びた居住区が見えてきた。硫黄ガスの濃度が濃くなり始めたエリアだ。
アクアは、保護スーツの機能で周囲のガスを調整し、居住区の中心へ降り立った……そこには、数名の古老が不安そうに集まっていた。
その中心に立っていたのが、古老たちのリーダーであるジーナだった。彼女はアクアの高性能なスーツを一瞥すると、すぐに警戒心を露わにした。
「なぜ、お前のような外部の者が、この採掘場の奥深くまで入ってくる?我々は、他の惑星との交流を望まぬ」
ジーナの声は、明らかに強い不信の色を帯びていた。
アクアは一歩前に出て、静かに話し始めた。アクアは、あえて自分の声(振動波)で語り、保護スーツの翻訳機からは翻訳された言葉が流れる。
「ジーナ様、私はテラの支配システム、偽りの意識体を倒すために、この微粒子の秘密を探っています。今、長老や村のファズも、私に協力してくださっています。私たちは、黒幕が微粒子を恐れている理由を知りたいのです。……この宇宙を覆う偽りの支配を終わらせるために……」
アクアの言葉には、嘘偽りや利己的な動機は一切含まれていなかった。
ジーナは、アクアの振動波の声の美しさと誠実な話の内容……そして、長老やファズが協力しているという事実に、微かに心を動かされたようだ。しかし、長年にわたる外部への不信感は、そう簡単に拭えるものではない。
「……イオの住人を救ったことは感謝する。だが、微粒子の枯渇に関する情報、そして惑星リーフとの交易記録は、おいそれと渡すことはできない」
そう言いつつもジーナは、アクアの熱意を無碍にはできず……しばらく沈黙した後、ある場所の情報を教えることにした。
「わかった。微粒子そのものの秘密は言えぬ。しかし、この大地の窪みから微粒子と一緒に採掘されていた鉱物がある。それらは、微粒子ではないが、生命の力を増幅する触媒のような役割を持っていた。今では微粒子と同じように、天然物はすべて見つからない数種類の特別な鉱物だ。我々の先祖は、それを大地の種と呼んでいた」
アクアは、これが微粒子の直接的な情報ではないと理解しつつも、黒幕が恐れる力の源に関する重要な手がかりだと直感した。
「ありがとうございます、ジーナ様。大地の種……」
ジーナはアクアの目を見つめ、再び厳しい表情に戻った。
「これくらいの情報で十分だろう。しかし、これ以上進むならば、採掘場古老の試練に挑んでもらう。お前はまだ、我々の信用を得ていないのだからな……」




