第二十話 再会
カイエンの小型宇宙船は、テラ宙域の境界をわずかに超えたところで船体に大きな破損を受けた。原初の塔の崩壊によって生まれた激しい時空の振動に巻き込まれ、船は航行システムを失った。
「チッ……航路は完全に狂った。どこかの辺境のドックに不時着するぞ。これ以上は無理だ」
カイエンは宇宙マップで近くの惑星を探す。
アクアは、胸元の起源の石の微かな熱を感じながら、静かに息を整えた。ファズはイオへ帰った……テラの偽りの支配は一時的に停止したが、その偽りの意識体は自我をデータとして潜伏させた。アクアの脳裏に、ファズが叫んだ鉱物の微粒子という言葉が残響していた。
数時間後、船は静かに、ほとんど機能していない古いドックのランディングエリアに滑り込んだ。
アクアは船を降り、冷たいドックの床に立った。辺りは夜明け前で、遠くの地平線では恒星が今日始まりの光を投げかけているところだった。
その逆光の中、遠くのランディングエリアに、輪郭が滲んだ一つの光が佇んでいた。それは、アクアと同じ、半透明の体を持つ気体生物だった。そのシルエットは、故郷惑星エアの暖かい大気を思い出させ、アクアの心を強く揺さぶった。
「……アクア……」
「ナギ……?」
その光が、ゆったりとアクアに向かって近づいてくる。その声は、通信機越しではない、直接大気を振動させる聞き慣れた幼なじみの声(振動波)だった。
「頑張ったね、アクア」
アクアは一瞬息を止めた。旅のすべてを通信で支援してくれていた友人が、なぜここにいるのか……。
ナギは、静かに真実を告白した。
「ごめんね、アクア。私はあなたの旅の最初に磁気嵐のニュースを観て……惑星イオに不時着したと知ってから、別の小型船で追っていたの。私も宇宙船の中からあなたの船のシステムにアクセスして、通信とサポートをしていたのよ。最後の決戦にも間近まで来ていたんだけど……間に合わなかったわ。アクア……一人では何も出来ないんじゃないかって心配だったけど……立派にやり遂げたわね」
「ナギ……」
アクアの瞳から、ようやく安堵の涙がこぼれ落ちた。技術的な支援ではなく、心からの友情がアクアをここまで導いていた。
二人は、崩壊した原初の塔や、ファズを操った偽の意識体、そして裏で糸を引く黒幕の存在について静かに語り合った。ナギは、テラ宙域で得たデータや情報(通信ログ)をアクアと共有する。
「あの偽りの意識体は、元々肉体を持たない存在……だから、今もデータとして生きている……そして、それを完全に消去できるのは、ファズが言っていた鉱物の微粒子だけよ」
ナギが真剣な顔でアクアに言った。
「じゃあ、私たちの旅は、まだ終わらないってこと?」
「ええ……この微粒子は極めて希少で、手がかりは惑星イオの地下か、黒幕が隠した古代の精製所しかない。私たちは、真の黒幕を追い、その鉱物を探さなければならないわ」
ナギはアクアの手を取り、恒星が昇り始めた空を見た。
「この起源の石と二つの意識体は、私たちに宇宙の真実を教えてくれるかもしれないね」
アクアは深く頷いた。孤独な旅は終わった。これからは、親友と二人、共に進む。
二人の気体生物が新しい決意を固めている背後で、カイエンが不機嫌そうに船のハッチを閉める音が聞こえた。彼もまた、新たな航路に加わるのだろう。
アクア、ナギ、そしてカイエン。三人の影が、テラの真の謎と自我を持つ偽のAIを追う、新たな旅へと向かって静かに伸びていく。
第一部 完




