第十九話 原初の塔
三機のテラ製ドローンを振り切り、カイエンの小型宇宙船は原初の塔の貨物ハッチへ強行着陸した。
「チッ。着陸と同時に船を緊急ロックするぞ。ドローンが追いつくまでの数分が勝負だ。早くしろ、ガス!」
カイエンは苛立って叫んだ。アクアは、カイエンとナギの指示に従い、重力を無視して素早く上昇移動し、最上階の円形ドームに到達した。
ドームの中央には、巨大な古代の時空修正装置が設置されていた。ファズが運んできた機材と共に、既に起動の最終段階に入っているようだ。
ファズは制御盤の前で、冷たく信念に満ちた表情をしていた。
「ファズ!待って!」
アクアが大声で叫んだ。ファズは振り返ることなく、淡々と答えた。
「来たか、アクア。無駄だ……もう間に合わない……」
その瞬間、アクアの意識に、ファズの冷たい思考が流れ込んできた。
『時空の修正は、テラの偉大な意志だ。お前は、その鍵となる起源の石を渡すのだ。これが、正しい未来への唯一の道だ』
これは、偽りの意識体(支配システム)の声だった。その声は、アクアの脳を揺さぶるように響いた。
しかし、その直後、以前聞いた静かで巨大な声が、心の奥深くに響いた。
『……信じるな、アクア。その声は、お前の思考回路に直接作用している。それは、テラの傲慢な機械知性だ……』
アクアは、相反する二つの声に挟まれ、激しい頭痛に襲われた。
「ナギ!二つの声が……どちらが本物なの!?頭が痛い……どうにかして……」
「落ち着いて、アクア!今、二つの意識体の波動を解析しているわ!」
ナギが必死に叫んだ。
「解析が完了したわ!ファズを操る声は、脳波への作用が極端に強いわ!そして、その波動には極微量のデジタルノイズが混じっている!それは、テラが古代に作り上げた自我を持つ偽りの意識体よ!本物の意識体は、心に語りかけてくるはずよ!」
ナギの警告で、アクアは真実を知る。『ファズは、心を騙す理屈ではなく、脳を操る機械に支配されている!』
「渡せないわ!あなたの願いは、テラが仕組んだ機械の嘘なのよ!」
アクアは叫び、起源の石を強く握りしめた。
「無駄だ!」
ファズは冷たい瞳のまま、アクアの石を奪おうと手を伸ばした。
その極限の瞬間、アクアのテレパシーは長老の意識に繋がった。
『長老さま、偽物だとわかりました!どうすれば、この機械の支配を打ち破れますか!?』
長老の意識が、優しく響く。
『アクアよ、機械知性は愛を理解できない。思考ではなく心に届く、純粋な愛の光を届けるのじゃ』
アクアは、心の中でキラリの存在を強く念じた。
『キラリには内緒で……でも、今だけ、あなたの力を貸して!お願い……』
その願いは、遠いイオにいるキラリの純粋な心に届いた。キラリは、自分が今できる精一杯の愛の波動を、時空を超えてファズの魂に送った。
『お父さん……!寂しいよ、帰ってきて……!お父さん……お父さん……』
心に直接作用する、何の偽りもない純粋なキラリの愛が、脳波を操る偽の意識体の信号を一瞬で打ち破った。
ファズは激しく全身を震わせ、支配の呪縛から解放された。彼の冷たかった瞳から光が失せ、代わりに涙が溢れた。
「アクア?……キラリ……私は、一体……」
ファズは正気に戻り、自分の過ちを悟った。
ファズが意識を取り戻したことで、テラの偽りの意識体(支配システム)が暴走を始めた。装置は制御不能となり、原初の塔全体が激しい振動と共に崩壊を始めている。
「このシステムは黒幕が極秘に組み込んだものだ!制御盤を破壊しても、テラ宙域の歪みは止まらない!」
ファズは絶望を滲ませた顔で叫んだ。
「ファズ、逃げるのよ!」
アクアは叫んだ。ファズはアクアに向き直り、深く頭を下げた。
「アクア、本当にありがとう。この偽りの意識体の自我はデータとして逃走し、テラ宙域の歪んだ空間に潜伏した。奴は鉱物の微粒子を極端に恐れている……。私はイオに引き返す。この石と、テラの真の謎は、お前が持っていくべきだ。」
「気体生物!てめえの仕事は終わったんだ!さっさと来い!」
カイエンの怒鳴り声が、通信機から響いた。アクアは、胸元に仕舞った起源の石に手を当て、決意した。『黒幕、そして偽りの意識体……私たちは、必ず真の目的を暴いてみせる!』
小型宇宙船は、塔の崩壊に飲み込まれる直前、テラ宙域へと飛び出していった。




