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憧れのテラ  作者: 星乃夢


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第十七話 猛追


 アクアは、カイエンに導かれるまま、赤色矮星のハブ空港の外れに隠されたドックへ到着した。カイエンの船は、アクアが予想していたような最新型の機体ではなかった。しかもそれは、外装が煤と傷に覆われた、かなり年代物の小型宇宙船だった。

「これが、時空の歪みを航行できる船?……本当に?」

 アクアは思わず尋ねた。

 カイエンは操縦席に飛び乗り、嘲るように言った。

「おいおい、見かけで判断するな、気体生物さんよ。最近の船は機械の大量生産で、船体構造もエンジンも案外脆い。だが、俺の船は職人の手作業で作られた年代物だ。設計がシンプルで、素材は今のものより遥かに頑丈で信頼性が高い。高性能AIも最新鋭のエンジンも、時空の狭間ではただのゴミだ。必要なのは、この頑丈な船体と、読みの鋭いパイロットだけさ」

「はぁ、そうなんですね……私には機械の事がよく分からないので、気にしないでください」

 慌ててアクアは、カイエンの機嫌を損なわないように口を閉じ……思った。『あれほど機械愛があるのは……ナギといい勝負だわ』

 

 アクアが乗り込むと、カイエンはすぐにハッチを閉じた。船内は狭く、計器類はアナログなものが多かったが、その一つ一つに、長年の航海で培われた信頼感が滲んでいた。


「あの、通信機をお借りしても?」

「ん、通信か……長年使ってないが通じると思うぞ。メンテナンスは欠かさないからな。ここに接続ソケットがあるが……今はソケット使わないのか?」

 カイエンが許可してくれたので、アクアはさっそくナギに状況を報告する。

「ナギ、聞こえる?」

 アクアは通信機でナギと話した。

「ええ、アクア。彼の宇宙船のサインは確認したわ。見た目は古いわね……でも、彼の言う通りよ、船体構造の解析結果は非常に堅牢よ。それに、彼が選んだ短縮ルートは、危険度が通常の三倍よ。彼の指示に絶対に逆らわないで!」

 ナギの声には、これまでにない緊張感が混じっていた。

「う〜ん、言いたい放題だな、お二人さん……こっちがアクアで、そっちがナギ?二人で話し込んで、俺の存在を消してるみたいだが……全部聞こえてるぞ」

 カイエンが会話に加わってきた。


 カイエンの小型宇宙船は、轟音とともに力強くハブから飛び出した。カイエンは、慣れた手つきで操縦桿を握り、外部モニターに映し出される無数の星と光の帯を、異様に見えるくらいの集中力で全方向を確認していた。

「短縮ルートとは、時空の隙間だ……分かってるのか?」

 カイエンは低い声で言った。

「ワープ航路の計算式が導き出さない……偶然の産物なんだ。いいか、俺たちは今から、その偶然を頼りに飛ぶぞ」

「は、はい……お願いします……」

 小型宇宙船は、通常の航路ではありえない速度で、巨大な星雲の縁へと向かっていった。やがて、眼前に、大気の層が歪んだような濃い紫色の亀裂が現れた……それが、時空の歪みの入り口だった。そして、その亀裂の先に……ファズの大型宇宙船の微かな航行跡が、辛うじて確認できた。

「ファズが、もう入り口の限界ギリギリだわ!」

 ナギが警告した。

「くそっ、間に合うか!」

 カイエンが舌打ちをした。

 次の瞬間、カイエンは猛烈な速度で船を操り、亀裂へ向かった。しかし、彼は亀裂の最も細く、最も不安定な端を狙ったのだ。


 船が時空の亀裂に突入すると、船体全体が激しい振動と異常な高熱に襲われた。計器類は一時的に意味をなさなくなり、船内を激しい光が支配した。

「これが……俺の短縮ルートだ!」

 カイエンが叫んだ。

「道は、常に揺らぎ、変化し続ける。航行データは一瞬で古くなる……必要なのは、俺の五感で歪みの変化を読む力だ!」

 カイエンは、計器を無視し、窓の外に見える光の歪みと、船体の振動の悲鳴だけを頼りに、操縦桿を微調整し続けた。

 

 その時、アクアの意識に、激しい情報の波が押し寄せた……それは、時空の亀裂の内部で発生している、空間の崩壊の予兆だった。

 『空間の層が剥離するわ!右舷に激しい圧縮がかかる!』

 アクアは、自分の意志とは関係なく、船の未来の危機をテレパシーで感知し、カイエンに送っていた。

 カイエンは、アクアの言葉を通信機ではなく意識で受け取った。

 その瞬間、大きく目を見開いた。

「何だと!?大型宇宙船を追っている、ただの気体生物が……なぜ、未来の危機を感じ取れるんだ!?」

 カイエンは驚きつつも、反射的に操縦桿を左へ切った。その直後、右舷を強烈な空間の圧縮が襲った。もし操縦を誤っていたら、小型船は一瞬で潰されていた……。

「その能力……それが、あんたが片道切符を引いた理由か!……面白い!」

 カイエンは笑った。そしてそれは、テラへの扉を開く決意に満ちた笑いだった。

 

 アクアとカイエンは、極限の危機回避という共同作業を通して、短縮ルートを突破し、ついに時空の歪みを抜けた。

 目の前に広がるのは、最終目的地、テラへと続く、光と闇の混じりあった未知の宙域だった。そして、その前方には、ファズの大型宇宙船が確かに航行していた。


 

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