第十三話 時空の警告
宇宙船の修理完了まで、残り三日。アクアは長老の隠された部屋に留まり、水に浮かぶ水晶板と、保護スーツのポケットにある起源の石を交互に見つめていた。
アクアが石に意識を集中すると、石の内部から、遠い故郷エアの暖かさと、イオの硫黄の熱が混ざり合ったような、強いエネルギーの波動が返ってきた。
『この石は、単なる鉱物ではない!このエネルギーは……まるで、触れた者の強い願いを、現実のものとして実現させようとするような……』
アクアには、それが具体的に何を意味するかまでは分からなかったが、この石が願いを叶えるほどの強い力を秘めていることを直感した。
アクアは、長老の部屋にある古代の装置を経由し、惑星エアにいるナギに遠隔通信を試みた。
「ナギ!私よ、聞こえる?」
「アクア!良かった、通信が安定してるわね……あれからずっと心配してたのよ」
ナギはすぐに、以前アクアが依頼したファズの航路の解析結果を伝えてきた。
「解析できたわ。ファズの宇宙船が目指した目的地は、広域航路図にはない座標。それは、テラ座標のさらに奥にある、光の届かない宙域だったの」
「光の届かない宙域?」
「ええ。古い記録にある時空の歪みの中よ。そこは、過去の文明が実験的に設置した長距離ワープ装置の残骸が、磁気嵐で暴走しているエリアだと考えられているわ。でも……」
ナギの声が、興奮と緊張で震えた。
「でも、アクア、その時空の歪みの構造を詳細に解析した結果、そこには別の可能性があるの。暴走した残骸ではなく、テラへと安全に通じる新たな航路を生み出しているかもしれないのよ!」
アクアは息を呑んだ。
「ファズは、その可能性を信じて危険を冒したのね……」
ナギは、重い口調で続けた。
「そうだと思う。そしてアクア、あの起源の石は危険よ。図書館の極秘ファイルに、あの石は……所有者の想いを具現化する、つまり願いを現実に変える力があるって書かれていたの。もし悪意のある者が使えば、宇宙を滅ぼす引き金になりかねないわ。ファズも、この石の力を使って、何かを成し遂げようとしているはずよ」
ナギからの警告を聞き、アクアがファズの目的について深く考え始めたその時、突如、通信回線に甲高く鋭い
「ピョ……ピー…ピピッ」
という高周波の音が割り込んできた。
ナギの声が途切れ、古代の意識体からの声が、直接アクアの翻訳機に流れ込む。
「……時空の歪みは、そなたの、時間軸を、変えるだろう。新たな航路(テラへの道)は、既に開かれた……」
アクアは息を呑んだ。この意識体は、ナギが発見した新たな航路の存在を肯定したのだ。
「……ファズの願いは、時間を巻き戻すこと……起源の石は、それを実現しうる……そなたの使命は、その時間軸を、正しいバランスで、固定することだ……鍵を、携えよ……」
声は、次の瞬間には完全に途絶えた。ナギからの通信が復旧し、混乱した声が聞こえてきた。
「アクア!今、何が起こったの!?通信が完全に遮断されたわ!今の声、あなたに聞こえたの?」
アクアは、冷静さを保ちながら答えた。
「大丈夫よ、ナギ。ただの通信障害よ……でも、確信したわ。その時空の歪みは、私が行くべき道なのよ」
アクアは長老の部屋の記録をとことん調べ尽くすことをナギに告げた。
「ナギは、その時空の歪みについて、安全に航行できるルートを最優先で解析して。ファズの目的は分かったわ。私は、彼が巻き起こそうとしている時間軸の歪みを正しいバランスで固定する……必ず成功させなきゃ」




