第十話 声の主
街での買い物を終えたアクアは、村を目指して高速の空間移動を開始した。
『あと少しで村だわ。キラリ、待っていてね』
その時、アクアの修理を終えたばかりの保護スーツのメイン通信機が、非常に不規則で高い周波数の音を拾い始めた。甲高く鋭い「ピョ……ピー…ピピッ」という音は、一瞬で消えるため、ノイズなのか信号なのか判別が難しかった。
『確かイオに到着した頃にも……テレパシーで呼びかけた時にも聞こえた、あの声かしら?』
「何なの、この声は?」
アクアはすぐにナギにテレパシーで連絡を取ってみた。空港の高性能通信機ではないため、確実ではないが試すしかなかった。
(ナギ!変な声がするの!前にも聞こえた声で、気になるの。何か分からない?)
遠い惑星エアにいるナギからの応答が、アクアの頭の中に響いた。
(通信ログをこっちで確認するから保護スーツの……あっ、アクアは機械オンチだから何も触らないで。こっちで保護スーツのシステムに接続して確認するわ)
ナギが遠隔でアクアのスーツシステムに接続すると、アクアのスーツ通信機とエアの高性能通信機との間で接続が確立された。テレパシーではなく、クリアな音声が翻訳機を通じて流れ始めた。
「ありがとう、ナギ。保護スーツは全自動らしいけど、大丈夫?」
「大丈夫に決まってるでしょ。私を誰だと思ってるの……う〜ん、よし!通信ログはエラーじゃないみたいだけど。高周波の信号みたいね……ログを採って、解析してみるから、ちょっと待ってて」
アクアは空間移動を中断し、ナギの作業を待った。
「さすが、ナギ。今空港から村へ移動中で……確か迷子になったのが、この辺りだったかも」
「分かったわ、アクア。場所に関係するのかしらね……それとも、以前私が警告した古代の監視装置と関係があるかもしれないわ。もう一度遠隔でログを抽出して、周波数を処理してみる!」
数秒後、ナギからの遠隔コマンドがアクアのスーツのシステムに入り、直近の「謎の音声記録」が自動的に抽出された。そして、ナギがそのデータを再生速度を1/100に落として再送信してきた。
低速化された音声が、翻訳機を通じてアクアの耳に聞こえ始める。
「……そなたの、選択を、我らは見守っている……」
「……テラへの道は、そなたの故郷にも、繋がる……」
それは、微かな声だった。特定の種族や感情を特定できない、冷たく平坦なエコーのような機械的な声。アクアは、それが誰かの意識であると直感した。
「ナギ!聞こえた?誰かの声よ!誰なの、これ?」
アクアは焦燥感をナギに伝えた。
ナギは動揺しつつも、冷静に解析結果を伝えてきた。
「アクア、これは……古い記録にある、身体を持たない古代の意識体が利用する通信パターンに酷似しているわ。イオの争いの際に、資源独占ではなく、銀河の安定のために設置された……古代の監視装置の伝説……その意識体が、あなたに語りかけたのかもしれない!」
アクアは驚愕した。身体を持たない古代の意識体……この声は、イオの悲劇を知る誰かなの?』
アクアの疑問を肯定するように、ナギの解析によってさらに深い音声データが抽出され、アクアの翻訳機に送られてきた。
「……その石(起源の石)は、そなたの、鍵に、なるだろう……」
「……ファズは、正しい道を選んだ。彼を追え。しかし、己の時間軸を、見誤るな……」
アクアは全身に戦慄が走るのを感じた。この古代の意識体は、彼女の持っている起源の石の利用価値と、ファズの旅の正当性を保証しただけでなく、時間軸という謎めいた言葉で、アクアの未来にまで干渉しようとしているのか……。
ナギの冷静な声が伝わる。
「アクア、信号は途絶えたわ。このログは極秘よ。この存在の情報を長老に伝えて。何かが変わろうとしている……とにかく急いで村に戻って!」
アクアが、ナギに礼を言う暇もなく、エアからの接続が一方的に切られた。長老とキラリに、この謎の声と古代の意識体の存在を伝えなければならない……。




