第九話 空港へ
長老が「惑星テラ」の名を告げ、アクアは胸の高鳴りが止まらなかった……しかし、その好奇心は、突如として鳴り響いたシステム音によって中断された。
「緊急通信、緊急通信。こちら惑星イオ空港。気体生物アクア応答せよ」
長老とキラリが緊張する中、慌ててアクアは通信に応じた。
「アクア、こちら管制塔。至急空港へ戻ってほしい。緊急事態だ」
「緊急事態?宇宙船の修理が完了したのですか?それとも……」
「いや、その保護スーツだ。メインシステムには問題ないようだが、異種族間翻訳機(通信機内蔵)に重度の故障が見つかった。このままでは、村の者たち以外の異種族との会話に支障が出る」
「えっ、翻訳機が……」
アクアは慌ててスーツを点検する。確かに、通信中に空港の管制塔と話す際、ごくわずかな音のズレが生じているような気がした。
「幸い、すぐに取り替える必要がある新しい交換用ユニットは届いている。この通信が安定しているうちに……直ちに、村の境界を超えない範囲で、空港方面へ戻ってくれ」
アクアは長老に状況を説明した。長老は頷いて言った。
「仕方あるまい。翻訳機の故障は重大な危険を招くかもしれん。警告通り遠くへは行かぬように、必ず戻ってきなさい」
「はい、長老さま。すぐに戻ります!」
アクアが飛び立とうとすると、キラリが慌ててやって来た。
「アクア、お願いがあるんだ!」
「どうしたの、キラリ?」
キラリが言いにくそうにモジモジしている。
「街に行くなら、あるものを買ってきてほしいんだ。僕たち液体生物は、村を出ると硫黄の熱で身体が蒸発しちゃうから、簡単には街に行けないんだ……」
そして長老も続けた。
「うむ。アクアよ、もう一度我々のために頼まれてくれないか……この村が次の乾期を乗り越えるために必要なものを空港近くの街で買ってきてほしいのじゃ……悪いのぅ」
長老は、アクアが見たことのない記号や文字が書き込まれた石板を差し出した。
「これは、『太陽光を集める特殊な繊維』の購入リストじゃ。街の『ドロール商会』に行き、このリスト通りに買って、村に持ち帰ってくれないか……どうじゃろう?」
アクアは、村への恩返しをできることが嬉しくて、すぐに依頼を引き受けた。
「長老さま、キラリ。任せてください!保護スーツを修理して、すぐに戻ります!」
アクアは石板を保護スーツの別空間のポケットに入れ、急いで来た時よりも更に速い空間移動で、空港を目指した。
空港に戻ったアクアは、すぐに受付カウンターで手続きをして、管制塔のエンジニアに翻訳機の交換を依頼した。
交換作業を待つ間、アクアは故郷エアのナギに近況報告をする事にした。空港内には、最新で高性能の通信機器が設置されている。通信代はかかるが支払い方法も選ぶ事ができて、とても手軽で便利なものだ。
「ナギ!元気にしてた?」
「アクア、心配してたのよ。磁気嵐のニュースをみたから……大丈夫なの?」
「うん、大丈夫……だけど、宇宙船が破損して惑星イオに緊急着陸したんだよね」
ナギは驚きのあまり声が震え、今にも泣き出しそうになっていた。アクアが慌てて詳細を説明し、ナギが恐れているような事は何も起こっていない事やアクア自身が目まぐるしく変わる状況をとても楽しんでいる事を伝えた。
「それよりも……ナギに聞きたい事があるの。長老さまから重要な情報を得たんだよ……伝説の星、惑星テラの話よ!」
遠いエアにいるナギからの応答が、アクアの間近で話しているように聞こえる。
「テラですって?アクアとよく行ってた博物館で展示されてた写真の……テラ?図書館の古い記録にしか出てこない幻の星だよね。長老はなぜそんな情報を?」
「イオの悲しい過去と、起源の石が関係しているみたいなの。ナギが持っている広域航路図に、アースの情報は載っている?禁断の地と呼ばれる理由も知りたいんだよね」
ナギはすぐに情報探索を始めた。
「テラの座標は、通常のマップには載ってないわね……古い探査データならあるかも。待ってて……座標の近くに、巨大なエネルギーの揺らぎが記録されているわ。おそらく、古い時代の長距離ワープ装置の残骸か、未発見の磁気嵐かも。近くを航行するとしたら……修理が終わったばかりの宇宙船でも危険だと思うなぁ……私も急いで航路を解析し直すから、ちょっと待ってて」
アクアは、先程のうろたえていたナギの様子がいつも通りに戻って安心した。
「ありがとう、ナギ。おかげで、安全な航路の確保ができそうね」
その時、エンジニアが戻ってきた。
「よし、翻訳機は完璧だ。しかし、このユニットが故障するのは珍しい。君のスーツに何か特別な負荷がかかったのかい?」
アクアは『青雪山での鉱物採取の時のことかな』と思いながらも、
「いえ……たぶん……特に思い当たるような事はなかったと……思います……」と小声で答えた。
アクアは、空港を出発する前に、キラリの父親ファズの安否確認と、テラへの航路確認という二つの重大な目標を胸に刻んだ。そして、村で約束した買い物のために空港近くの街へと向かった。
上空を飛びながら、ドロール商会の看板を見つけた。アクアは、店の前にトンと降り立つと、リストにある特殊繊維を全て購入した。しかし、繊維はかさばるため、後日村への配達を依頼した。
街での任務を無事終えたアクアは、空港の管制塔に報告を入れた。飛行の許可が出ると、再び村を目指して空間移動を開始した。




