プロローグ
惑星エアは、温かく澄んだ大気がすべてを包み込む、気体生物の星だ。巨大な浮遊都市がいくつも大気中に浮かび、そこには歴史館や科学館、そしてアクアとナギの家もあった。
幼い頃、アクアとナギは、母親の隠してあった貴重な微粒子でいたずらをした。その微粒子は、天体光に当たると虹色の輝きを放ち、気体生物の身体をわずかに染め上げる……化粧品のようなものだった。
「少しだけなら大丈夫かな」
「えー、やめときなよ」
「ほらっ」
アクアが指につけた微粒子をナギに振りかけた。途端にふわっと全身が輝きだした。
「私も……」
と、アクアが自分に振りかけようとした時、母親に見つかってしまった。叱られている時も、ナギは不安げな顔でアクアの手を強く握りしめていた。
時が経ち、アクアの「異世界への一人旅」への夢が現実味を帯びる頃、ナギの心配性は頂点に達していた。
「一人で旅行なんてとんでもない!磁気嵐や航行の危険をどうするのよ?」
ナギは、いつものように厳しく猛反対した。しかし、アクアの瞳の奥にある強い好奇心と熱意に、やはりナギはいつものように折れる。
「わかったわ。でも、目的地は赤色矮星にしてほしいな。航行ルートが確立されているから安全でしょう。もう……心配する私の身にもなってよね」
「はいはい、目的地は決めてなかったし、許してくれるならどこでもいいよ。ありがとう、ナギ」
「ちゃんと状況の報告をすること、約束よ!」
一人旅の準備として、ナギはお守りを用意した。宇宙共通語、テレパシーの特訓だ。
「えー、面倒くさいなぁ。テレパシーなんて必要ないよ」
「いいわよ。じゃあ、旅行もやめる?」
「そんなぁ~、旅行を交換条件にするなんてズルいよ」
「なんとでも言いなさい。これは絶対に譲れないからね」
アクアが逃げようとしても、ナギは根気強く指導した。
「いい?宇宙は広いのよ。私たちとは違う環境や生物もたくさんいるんだからね」
「分かっているわ。だからこそ、こことは違うところを見たくて旅行したいの」
「じゃあ……もし、通信機が壊れたらどうするつもりなの?」
『えっ、ナギと連絡が取れなくなったら……?』
旅行の許しをもらって浮かれていたアクアが真剣な顔になった。
『いつもナギが、あらゆる想定と対策を考えてくれて……困った時はナギに聞けばいいって思ってたけど……旅行に行ったら自分で何とかするしかないのよね。これは、もしもの時の命綱なんだ……ありがとう、ナギ』
ナギの厳しい言葉の裏には、アクアを安全な旅路へと導きたいという深い愛があったのだ。




