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血は、丸く残らない

 馬車道を突っ切り、向かいの石畳に小走りで渡る。日のあるうちは交通量も多い。流石は要所だ。ライバル店、“鍛冶屋マーレク"は、先ほどの店より少し大きな店だった。店内には武具だけでなくフライパンなんかもある。手広くやっているようだ。カウンターは無く、奥の炉があるエリアまで丸見えの構造だ。作業台の上で何か材料を数えているようだが、今なら話が出来そうだ。武具のチェックを始めたカイルは無視して、声をかける。

 「すみません。」

 「いらっしゃい。ちょっと待ってくれ。」

 俺は近くで作業が終わるのを待つ。グラハムに比べると一回り小さく見えるが、がっしりした体をしている。比較的若く見えるが、頭がツルツルだ。

 「よし。何が欲しいんだ、にぃちゃん?」

 「すみません。俺は魔法ギルドのリオスと言います。事件の調査で来ました。少しお話し良いですか?」

 「向かいのアレか。良いぜ。」

 マーレクの話にも、矛盾点は無かった。エルナの後にグラハムが出てきたと確信している。

 「暗いのに、よくわかりましたね。」

 「向こうはまだ明かりがついてたんだ。影だけだったが、背丈でわかる。顔1つ分違うんだ。間違えるわけねぇ。」

 「その時、マーレクさんは何を?」

 「俺は店先で月を見てたんだ。あの日は満月だったからな。」

 それはさぞツルツルがピカピカだったろう。俺は思ったことを表に出さないまま続ける。

 「ちなみに、マーレクさんの魔法は滑りが良くなる魔法らしいですね。」

 「ああ。だが範囲が狭ぇから移動で使えねぇ。普段は使うことも無ぇよ。」

 記録では、手をついた場所から半径3mの円を描くように幅10cmの部分の滑りが増す。滑り具合はどんなものなんだろうか。

 「その魔法、見せてもらっても良いですか?」

 「良いぜ、ついてきな。」

 こちらでも店の裏手で実演をしてもらう。滑り具合は、グラハムの店の鉄粉の場所と同じか、それ以下といったものだった。お礼を言い、店を後にする。

 「ツルツルって感じだったな。」

 「ああ、ツルッツルだった。」

 顔を見合わせて、ひとしきり小さく笑い合う。カイルとは変なところで気が合う。

 「さて、どうする?食い違った理由が俺には全然わかんねー。」

 カイルは投げ出しかけてるようだ。このまま“魔法の痕跡無し"と報告しても片はつくので別に良いんだけど。

 「んー、もう一度現場見てみるか?」

 「オッケー。」

 俺たちは左右を見て、再び馬車道を駆け足で横切る。すると、1歩分早く石畳に到着したカイルが盛大に転んだ。

 「ぐっ…痛ってー。マジかよ…」

 俺に転ぶなよ?とか言ってたくせに頭から思い切りいきやがった。普通は心配するとこだが、コイツに関しては大丈夫なので笑いが込み上げてくる。

 「おいおい、しっかりしろよ。」

 「くそー、さっき滑りで遊んでたせいか?」

 「何回も踏んづけてたもんなー、お前。」

 言いながら、血の跡が目に入る。カイルの血は、石畳の上を扇状に飛び散っていた。違う。事故の血痕は、丸い跡になっていた。どの方向から転んだか、わからないほどに。前に倒れたなら、進行方向に血が流れ出たはずだ。ただ転んだにしては、集中し過ぎている。

 「…カイル。」

 「なんだ?」

 その返事には、真剣さが混じっている。俺が何か思いついたという確信が含まれている気がした。

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