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誰が、そこに立っていたのか

 昨日受けた依頼の街道は、都市部から少し離れている。しかし、東の国に行く時に多くの人が通る交通の要所の1つとなっている為、大きな石畳の道は綺麗に整備されている。

 「担当のエドガルだ。」

 「魔法ギルドのリオスです。こちらはカイル。」

 「よろしくお願いします!」

 衛兵の詰所兼事務所に向かった俺たちを出迎えてくれたのは中年という表現がしっくりくる、ちょっと太った男だった。応接間で席に着いてすぐ、本題に入る。

 「ある程度は伝わってると思うが、順を追って話そう。

 夜、鍛冶屋に泥棒が入った。調査した限り単独であり、店仕舞いをちゃんとしていないのを見て突発的に及んだ犯行と考えている。当時、その鍛冶屋には店主とその娘がいて、片付けの為に奥から出てきた店主が泥棒と鉢合わせ、逃げた犯人を追いかけようとして出入り口から顔を出したところで、大きな音がした。見ると、軒下を過ぎてすぐの石畳の上で倒れた犯人を発見。娘が詰所に連絡しに来て、現場に行った俺が死亡を確認した。

 状況と証言から、バカな泥棒が転んで死んだってだけの単純な事件だと思ったが、向かいの鍛冶屋の店主が妙な証言してきてな。」

 「えっ、向かいにも鍛冶屋があるんですか?」

 カイルが思わず、といった具合に口を挟む。俺も思ったけど後でいいだろ。

 「ああ。数年前にきて、真っ向勝負してる。どっちも腕が良いから、お得意さんも多いみたいだな。」

 「それで、証言とは?」

 「偶然、その時店先にいたらしくてな。走り去ろうとする男が転んだ時、表にいたのは娘の方だって言うんだよ。」

 「…盗みにあった店主は、自分が犯人を追ったと言ってるのに対し、向かいの人は娘が表にいたと言っているってことですか?」

 「そうだ。で、確認のため盗まれそうになった方に娘はその時どこにいたのか聞いたら、店の奥に居たって言うんだよ。」

 確かに奇妙だった。店の奥にいたなら表にいたと言われるわけがないし、表にいたなら店の奥にいたと言うわけが無い。

 「暗くて見間違えただけとか?」

 「だと思うが、念のため確認して欲しいってのが今回の依頼だ。事件のことは近辺のやつは全員知ってるから好きに聞き回ってくれて良い。ただ、証言の話は控えてくれ。変に焚き付けるようなことはしたくない。」

 「わかりました。早速行ってみます。」

 地図に印をつけてもらって、詰所を後にする。ひとまず現場の痕跡から見た方が良さそうだ。


 石畳には、まだ血の跡が残っていた。打ちつけた箇所をはっきり示すように、飛び散った中に大きな丸い跡がある。泥棒が来た方の鍛冶屋、“鍛冶屋グラハム"の軒下には、いくつか武具が置かれていた。見てみようと近づいた時、やたら足元が滑るのに気付く。鍛冶場が近いせいだろう、鉄粉が舞い、店先はどうしても滑りが良くなる。

 「転ぶなよー?」

 「転ばねーよ。」

 カイルは茶化すように言う。滑りそうな俺をしっかり見ていたようだ。めざとい。


 「いらっしゃーい。」

 女の子がカウンターの奥で座っていて、店に入る前からこちらに目を向けていた。壁には様々な武具が立て掛けてあり、中央にはナイフや何かの留め金のようなものが展示するように置かれている。奥では作業中なのだろう、金属同士がぶつかる音が大小聞こえてくる。カイルは聞き込みをする気が無いのか興味を引かれたのか、すぐに出入口付近の商品で足を止めた。俺はぐるりと店内を見回すだけで、さっさとカウンターに近づく。今は他に人がいない。

 「すみません。魔法ギルドのものなんですが、店主のグラハムさんはいらっしゃいますか?」

 「…事件のことですか?」

 「はい。少しだけお話しをお聞きしたいんですが。」

 「ちょっと待ってて下さい。」

 笑顔の1つも見せず表情があまり変わらないのは、俺たちが客じゃないと始めからわかっていたからだろうか。愛想の良さが普段通りなら、店主の腕が相当良いに違いない。女の子は奥へ引っ込むとしばらくして戻ってくる。

 「区切りがついたら来るので少し待ってて下さい。」

 「わかりました。あなたが娘のエルナさんですか?」

 「そうです。あの時は店の中にいたので詳しいことはわかりません。」

 話が早い。衛兵にも色々聞かれた後だからだろうか。

 「そうみたいですね。ちなみに、重力操作の魔法が使えるそうですが、見せてもらっても良いですか?」

 「…なぜですか?」

 「記録員なので、魔法に関する報告は具体的な方が良いんです。お願い出来ませんか?」

 「…まぁ良いですけど、ちょっと重くなるだけですよ?」

 「おっ!そう言うことなら俺にかけて下さい!」

 カイルが割り込んでくる。なぜコイツは受けたがるんだ?俺の知らない間に何かの扉をこじ開けてしまったのだろうか。それはさておき、具体性がある方が助かるのは確かだ。

 「人に使うんですか?」

 「大丈夫です!俺、怪我してもすぐ治るんで!」

 「…なら、裏に来て下さい。6m必要なので。」

 店の裏手は、地面の殆どが土の色で雑草は少なかった。手入れがされてるのは、なんか意外だ。石畳のすぐ後だからか、妙に柔らかく感じる。

 「じゃ、お願いします!」

 距離を取り、合図を出す。エルナが右手をかざすと、カイルが若干沈み、表情が険しくなる。

 「どうだ?」

 「スクワ、ット、するに、は、丁度、良いぜ。」

 記録によれば、範囲は30cm四方。狭い方だと思うけど、重さは結構あるようだ。

 「もう、いい、だろ。」

 「ん〜、どうかなぁ。」

 「早く解けよ!」

 「もう大丈夫でーす!ありがとうございます!」

 エルナが魔法を解くと、カイルは手を膝に乗せて肩で息をし出した。ちょっと重くなるだけでも、負荷はちょっとじゃ済まないらしい。

 「エルナ、こっちに居たのか。」

 タイミング良く、背の高い筋肉質な男が現れる。俺は近づいて挨拶をする。

 「初めまして、魔法ギルドのリオスと言います。店主のグラハムさんですよね?」

 「ああ。丁度良い、悪いがここで話そう。エルナは店番に戻れ。」

 「うん。」

 エルナと入れ替わるようにカイルが近づいてくるのを横目で見ながら、話を切り出す。

 「早速ですが、事件の状況について確認させて下さい。」

 「手短にしてくれよ。こっちはただの被害者なんだ。」

 その後、いくつか質問をしたが、衛兵の話との矛盾点は無かった。エルナは店の奥、グラハムが追おうとして犯人が事故死。

 「犯人が転んだ理由に何か思い当たることはありませんか?」

 「店の前の商品に引っかかったか、滑って転んだんだろう。俺も必死だったし、暗かったから正確にはわからんがな。」

 「そうですか…ちなみに、グラハムさんの魔法はバランスを崩す魔法と記録で見たのですが、人にしか効果が無いらしいですね。」

 「そうだ。触れた相手の感覚が狂う。前に、ほろ酔いぐらいだって言ってたやつがいたよ。言っとくが、俺は犯人に触ってねぇぞ。そもそも、簡単に転ぶほど狂うもんじゃねぇ。」

 「害が無いなら、俺に使ってみてくれません?」

 カイルはまたも志願する。握手の後、走っても特に軸がブレるようなことは無かった。確かに大した影響は無いようだ。

 「ありがとうございます。もし何かあればまた伺うかも知れませんが、よろしくお願いします。」

 「ハァ…わかったよ。そういや、お前たちはどんな魔法使うんだ?」

 「カイルは怪我してもすぐに治ります。俺は左手が光るだけです。」

 証明するように微光を放つ左手を見せる。自分の魔法を教えることは信用に繋がる。でも、俺の立場で呪文が使えるのは、不信を招く。

 「…そうか。調査っぽい魔法とかじゃねぇんだな。」

 「俺たちは雑用係みたいな感じですね。…では失礼します。」

 自分で雑用係と言う悲しみを感じていると、カイルが小声で言う。

 「どっちも転ばせることは出来るな。」

 「…向かいにも聞いてみよう。」

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