想定外の暴力
後方支援部隊に戻った俺たちはひとまずテントで治癒を施してもらった。シェルドの輝くボディも見事に治っていく。どういう作用なのだろうか。治癒士は動揺していないところを見ると、考えても無駄だと悟っているのかも知れない。
「私はこのまま前線に戻る。引き続きここを頼むよ。」
「気をつけて。」
シェルドを送り出そうとした時、一際大きな轟音が響く。慌てて飛び出ると、皆が空を見上げている。つられるように目を向けると、ナンミ=ヴァルの黒球が変化し始めていた。金属が擦れるのとも違う、細かく甲高い音が響き渡る。
(なんだ?)
毛糸玉が解けるように現れたその姿は、アルマジロのようだった。重さに変化は無いはずなのに、羽ばたきは統制を失ったようにブレて高度を下げていく。着地したそれの足元では、木が倒れ、砂埃が上がるのが分かる。着地の衝撃が来たのか、強い風が吹き付ける。
「ヴァアアアアアアアア!!!!」
動きに遅れて届く咆哮は、明らかに全員が初めて聞くものだった。その口から次に放たれたのは、見たことのない赤とオレンジが混ざったような怪光線だった。自身の蛇に向けられたのであろうその攻撃は、一部が自身に跳ね返り、また別のどこかへ飛んでいく。塗り潰された空の一部が、一瞬歪んだ。
「なんだあれは…あんなの知らないぞ…!」
シェルドは噛み締めるように言うと、大声を上げる。
「全員撤退しろ!このまま作戦を続行するのは不可能だ!あの光線が飛んでくる前に逃げるんだ!」
それを合図に、恐怖に押し出されるように皆が一斉に走り出す。
「私はコルマ達を探す!君たちはここの殿を!」
「死ぬなよ!」
既に走り出した背中に呼びかけたが、返事は無かった。
魔物連合の集落まで撤退した俺たちは、再び球体へと戻っていくナンミ=ヴァルを眺めることが出来た。蛇に小さな結晶がいくつも刺さっているが、大して気に留めていないのか、悠々と根城へと戻っていく。呆然としたままの俺たちの意識を引き摺り下ろしたのは、怪我を負った前線部隊の足音だった。治癒が施される中、周囲を警戒する俺の耳にも様々な声が聞こえてくる。
「一瞬で消し飛んだ…」
「結晶は効いて無かったんじゃないか?」
「大人しくしてればこんなことには…」
「ここも安全なのか?」
「誰だ?あんなのに勝てるって言い出したのは?」
「コルマの作戦は失敗だった。」
それぞれの不安が渦を巻くように1つの場へ向かっていく。それを肌で感じながら、夜の帷が降りていった。




