理想の連合
召喚型の魔法の中には、見たことのない生物を呼び出すものもある。それらは総じて魔物と呼ばれ、様々な事故のキッカケとなってきた。最も多い事故は召喚者が殺されるパターンであり、厄介なことに、魔法が使われている状態で召喚者が死亡すると、魔物は残り続ける。暴れ回る魔物は討伐するしか無くなるのだ。しかし当然と言うべきか、魔物は強い個体が多く、手に負えない程の災厄と化しているものも多い。そうした魔物の被害で最も有名なのが南の国、ナンミが滅ぼされた事件だ。黎明期に何者かによって召喚されたナンミ=ヴァルは猛威を振るい、南の国は半年ほどで滅んだとされている。その事件の噂は瞬く間に広まり、魔物を危険視する声が相次いだ。各地で追われた魔物は最終的に南に集まり、魔物の巣窟と化したが、今でもその頂点に君臨するのはナンミ=ヴァルだと言われている。
道中、馬車で乗り合わせた人などと話して分かったが、ナンミ=ヴァル討伐に向けた動きは結構広まっているらしい。この地域に済む人たちからはかなりの期待を集めているらしく、俺たちまで応援された。だが、肝心のナンミ=ヴァルについて確かな情報を持っているものはいなかった。概ね共通していたのは高い山を根城にして空を飛んで移動することぐらいで、姿を見た人はいない。火を吹く、尾が10本ある、目を見たら死ぬだとか言う話もあったが、どこまで本当なのかわからなかった。
依頼書で指定された場所は、かつての関所のすぐ近くだった。縄張りの範囲外で最も頑丈な拠点が恐らくここなのだろう。3階建の邸宅の一室に通された俺たちを出迎えたのは、年季の入った初老の男と、二足歩行する狼だった。
「遠路遥々ありがとう。そこに掛けてくれ。」
俺たちは男に促されるまま、対面のソファーに腰掛ける。狼は男の後ろで立ったままなところを見ると、従者なのかも知れない。
「魔法ギルドのカイルです。よろしくお願いします。」
誰が話す役かを示すように、腰掛けてすぐにカイルが挨拶をする。
「ナンミ=ヴァル討伐隊隊長のドンジーだ。早速説明に入るが、良いかな?」
「はい。」
ドンジーは俺たち一人一人と目を合わせた後、静かに話し始めた。
「今回の作戦は簡単に言うとカウンターで仕留めるものだ。協力的な魔物たちが陽動を行い、私が仕掛けた罠に嵌める。討伐の算段自体は既についているから問題無い。君たちに頼みたいのはナンミ=ヴァルに協力的な魔物たちの迎撃だ。」
「え?ナンミ=ヴァルには仲間がいるんですか?」
「奴らに仲間意識があるのかは分からない。だが、逆らわずに従うような動きを見せる魔物がいる。いずれも知能は高く無いようだが強力な個体ばかりだ。」
直接本丸と対峙することは無さそうだが、戦闘は避けられないようだ。ドンジーは机に資料を開きながら説明を続ける。
「我々が特に危険視している個体は8体。ナンミ=ヴァルに挑んで生き残った奴らだ。」
覗き込むと、絵付きで体長や使用した魔法について書かれていた。それぞれ熊、鹿、猪など、何かの動物に似ている。
「わざわざ助けに来るとは考えづらい。だが、魔物の多くは人から追い払われて集まってきている。恨みを買っている以上、無警戒で挑むわけにはいかない。そこで君たちには後方の物資と治癒を担当する部隊の守りをお願いしたいというわけだ。」
「なるほど…つまり運が良ければ無傷でナンミ=ヴァル討伐の瞬間が拝めるわけですね?」
「ハハッ。運が良ければな。」
カイルの軽口によって、ドンジーの人当たりの良さと襲撃を受ける可能性の高さを知ることが出来た。カイルは少し間を置いて、最も重要な疑問を口にする。
「役割についてはわかりました。でも、具体的にどうやってナンミ=ヴァルを討伐するんですか?」
ドンジーは唸るように弱い息を吐いて考え込んでしまった。作戦内容は秘密なのだろうか。だが、何が起きるかわからない戦場に立つ気は俺たちには無い。
「流石に12時間ずっと守ってろとか言われたら途中で寝ちゃいますよ?俺たち。」
「そりゃそうだ。…君たちはナンミ=ヴァルについてどのくらい知っている?」
「噂程度にしか知りません。」
カイルの追い打ちが功を奏したのか、詳細を聞けそうだ。全員の意識がドンジーに集中する。
「それじゃ何も知らないのと同じだな。ナンミ=ヴァルがこの魔境で頂点に立ち続ける最大の理由は奴の魔法にある。」
「それはどんな?」
「どんな攻撃でも反射するんだ。奴の羽、球体部分、尻尾のような蛇、どこに当てようとしても必ず跳ね返る。真っ直ぐ返ってくることはあまり無いが、奴に当たらないのは確かだ。」
「…あの、今更ですけど、ナンミ=ヴァルってどんな姿をしているんですか?」
「あぁそうか、そこからだったな。奴は魔境から出ないせいで名前ばかりが知られてるからな。」
言いながら広げられた資料には見たことの無い絵が大きく載っていた。黒い鱗で出来た球の上部にドラゴンのような羽が生え、下部から伸びる尻尾らしき6匹の蛇は周囲を警戒するように別々の方向に向いている。
「これがナンミ=ヴァル…」
「そうだ。これのどこに当てようとしてもどこかへ跳ね返る。だが、奴の攻撃は非常にシンプルでな。この蛇の部分が噛み付くか、巨体に任せて振り回すしか無い。圧倒的な防御と並程度の攻撃。はっきりした頂点がいながら魔物が減らない理由の1つだ。」
これに“デヤル"を撃ったら、また空の彼方に消えてしまう可能性があるわけだ。今後、直接当てるような撃ち方はやめるべきかも知れない。俺が反省に気を取られる中、ドンジーの話は続く。
「ここで重要なのが、奴から触れることは出来るという点だ。罠を張って攻撃させることが出来れば、倒せる。」
「なるほど…でも、魔物同士の戦いで振り回せるほど蛇の部分は硬いわけですよね?どんな罠を張るんですか?」
「私の結晶魔法だ。」
「結晶?」
「これだ。」
ドンジーが右手を机にかざすように広げると、人差し指の先から小さな水色の結晶がコトッと落ちた。5秒ほどで親指ぐらいの大きさになる。形状は刺々しく、まるで金平糖を研ぎ澄ましたようだ。
「魔法をかけてから2週間は持つ。時間をかけ、大きな結晶にすれば奴に刺さって動きを封じるのに十分な強度と重量を得られる。刺さってしまえば、私が魔法をかけ続けることで内部から侵食するように倒すというわけだ。」
「へー、キレイですねー。」
「おいおい、触んない方がいい。怪我するぞ。」
「あー、大丈夫です。」
「え?おい…」
「イテッ!確かにすごい棘だ。手で投げたりは出来なそうですね。」
結晶に血はついたが、当然カイルに怪我は無い。なぜ試したがるのかは謎だが。
「…頼もしい奴が来てくれたみたいだな。」
作戦の決行は2週間後。罠の確認と魔物連合への挨拶以外の時間は今回護衛する後方部隊の手伝いをすることを決めて、その場はお開きとなった。
「罠の規模や設置間隔を実際に確認することは出来ますか?」
ミナの希望で結晶確認ツアーを先導することが決まったドンジーの後ろにいた狼の従者、ヴォルグは無口な方らしかった。最初に地図で大まかな位置を説明した後はズンズン進んで行く。罠を張れるほど制圧出来た場所とはいえ、魔物が跋扈するこの土地を迷いなく進むということは鼻とか耳とかがとても良いのだろう。
「あの…ヴォルグさん?」
カイルとバカ話をして変に怒らせるのも嫌だったので、ヴォルグに話しかけてみる。
「なんスか?」
良かった。普通に会話は出来そうだ。最初の説明でも思ったが、言い回しが結構粗野だ。
「ドンジーさんとは付き合い長いんですか?」
「あぁ…まぁ20年くらいッスかね。」
「へー、結構長いんですね。魔法が使えるようになってすぐくらいですか?」
「そッスね。ドンジーのお父さんに召喚されてすぐッスね。」
「え?ヴォルグさんも魔物なんですか?」
「そッス。」
考えてもみれば、魔物だと思う方が自然か。この間、北の国に行ったばかりだからか、違和感が無かった。変異型と魔物を比べても、俺には見分けがつかない。
「そうだったんですね。お父さんは今どちらに?」
「昔、死んじゃいました。ナンミ=ヴァルのせいッス。」
「あ…すみません。」
「いや、いいんス。…とても立派な人だったんスよ。当時は魔物に嫌な噂とか無かったスから、家族みんな仲良くしてくれたんス。でも、ナンミ=ヴァルが暴れてからは大変だったんス。ドンジーのお父さんはナンミ=ヴァルを止めるために他の魔物と争わせる案に賛成したんス。オレみたいな一緒に暮らせる魔物の為に、暴れるだけの奴らをなんとかしようとしてくれたんスよ。」
もしかして、南の国があった頃の話だろうか。対策の意見を出す様な立場だったのなら、ドンジーはお偉いさんの一家だったのかも知れない。
「でも、結果は大失敗だったんス。漁夫の利で倒しちまおうとしたんスけど、ナンミ=ヴァルを倒せる魔物も見つからなかった上に、オレらが倒せるほど弱るまで争うことも無かったんス。結局、被害ばっかりが広がって魔境になっちまったんス。」
「ドンジーさんにとっては宿敵なんですね。」
「そッスね。魔物が暮らせる場所を作るっていう意志も継いでくれてるんでありがたいッス。」
理想を掲げた人がいたから、魔物と協力できる討伐部隊が出来たのだろう。ドンジーのお父さんは魔物連合では結構な人気者なのかも知れない。勝手に呼び出されて、よく分からないまま忌み嫌われた境遇からすれば、希望の光だったに違い無い。
「魔物連合にいるのは召喚者を失った魔物がほとんどなんですか?」
「いくつか差はあるッスけど、ほぼそうッスね。…中には、自分でやっちまった奴もいます。」
「…そうなんですね。」
何となく視線を泳がせると、横を歩くカイルと目が合う。目と表情が“やっちまったな"と語っているのに対し、俺は自然と苦い顔で答えていた。
しばらく沈黙の行進を続けると、まばらに見張りの魔物の姿が見える様になってきた。何となく気が抜けないまま進んで行くと、木々に囲まれた中から洞窟が見え始めた。カイルが不思議そうに尋ねる。
「あれ?罠って洞窟の中にあるんですか?」
「そッス。」
「この穴に蛇を誘い込めるんですか?」
「罠があるのはこの先の山の斜面の近くッス。ナンミ=ヴァルには山に突進したと思わせて結晶にブッ刺さってもらうッス。」
説明の反響が大きくなる中、俺たちは暗がりに歩を進める。壁の松明に照らされながら奥に目を凝らすと、僅かにチカチカ光って見える。そう遠くでは無さそうだ。
結晶は、松明の光では照らしきれないほど大きかった。1つ大きなものがあるというよりは、棘が四方八方に枝分かれする様に伸びており、透き通った荊を眺めているようだった。
「キレイ…」
ミナの声は一際、感動しているように聞こえた。…まさか、これが見てみたかっただけなんじゃ?まー良いけど。
「確かに綺麗だし、それにすごい規模だ…こんなのが後5か所もあるんですか?」
ダインは壁の松明を1つ拝借し、上の方に掲げながら尋ねる。ハッキリとは見えないが、光の照り返しで相当な規模だとわかる。
「そッス。他の場所も空からは見えない様に落とし穴みたいになってるッス。」
「なるほど…」
全員で言葉を失くしたように静かに見上げていると、入り口の方から妙な音が近づいてくる。これは、金属音か?
「ヴォルグさん…」
「あ、大丈夫ッス。魔物連合の奴なんで。」
「あ、そうなんですか?」
そう言われても気になってしまい、チラチラ後ろを見ながら待っていると、明かりの下に音の主が踊り出た。その姿はどう見ても鉄、で出来たリスだった。背は俺の膝に届くかどうかぐらいあり、リスにしてはデカい。
「突然押しかけて申し訳無い。私は魔物連合のシェルド。よろしくニャ。」
うわ、喋りはネコだ。ってか鉄製ってアリなの?魔物ってマジ理解不能。
「よ、ろしく。」
「…フフッ、いや失敬。語尾を猫にして挨拶すると皆驚いてくれるのでね、君たちにもついやってしまったんだ。許してくれ。」
「そう、なんですねー…」
初手でやることか?口調とイタズラのレベルが釣り合って無い、が、鉄製の動くリスにそんなこと言うのもバカらしい。俺が呆然としていると、シェルドはヴォルグに向き直る。
「ヴォルグさん。来週、魔物連合は決起会をすることを決定したよ。」
「やっぱりやるんスね。」
「ああ。霧散するとしても、思い出はきっと抱えて行けるからね。良ければドンジーさん達を連れて来てくれ。品があるとは言い難い会になるだろうが、楽しんでもらえると思う。」
「伝えておくッス。」
「魔法ギルドの皆様も是非来てくれ。せっかく同じ作戦に参加するんだ。私たちのことも知って欲しい。」
お前を見ただけでもうお腹いっぱいな気もする。が、やはり参加しておくべきだろう。正直、敵味方の区別ついてないし。俺が目配せしようとした時、既にカイルは笑顔だった。1人でも行く気だな、コイツ。
「決起会ってことは、ご馳走ですか!?」
「もちろんだ。」
「絶対行きます!」
「それは良かった。日時は追って連絡するよ。お邪魔したね、ではまた。」
約束を交わした、シェルドは足早に去っていった。来る時より音がうるさかったので、多分足早のはずだ。
作戦決行日の3日前、俺たちはドンジー達と一緒に決起会に向かった。前線を担う魔物連合と後方支援を担う人間部隊が大合流したわけだが、それぞれの交流はそこまで進んでいないらしく、大体はいつも話している連中で固まって飲み食いするだけだった。堅苦しい挨拶も無いままドンジー達は魔物連中に引っ張られていった為、俺たちも気楽に腹を満たしていく。
「カイル、食いすぎじゃね?」
「今食わなくていつ食うんだよ!いやー最初、魔物の料理ってゲテモノかもってちょっと心配したけど、美味いもんは共通なんだな!」
「食べるか喋るかどっちかにしなよ。」
「ミナはケーキばっかだな。肉も美味いぞ!」
「いや、もうお腹いっぱいだから。」
そう言うミナの皿にはケーキがびっしり盛られていた。出来るだけ多く取ろうとした結果なのか、変な几帳面さを感じる。その横でダインはゆったりと焼き魚を食べている。ろくに喋りもせず、ずっと食べ続けていたはずだが、そのペースが落ちる気配は無い。
「ギルド諸君、こんばんは。楽しんでくれているかい?」
声をかけてきたのは、片手にワイングラスを持ったシェルドだった。リスの手って器用なんだな。いや、リスじゃ無いのか?
「こんばんは、シェルドさん。豪華な食事でみんな大満足ですよ。」
「ホント!マジ美味いっす!」
「ハハッ、それは良かった。ゆっくり楽しんでくれ。ところで、我々のリーダーとは話したかな?」
「魔物連合のリーダーですか?話してないと思います。」
「そうか。良かったら声をかけてやってくれないか?我々にとって、君たちの様な人と話す機会は貴重だからね。」
確かに、一緒の作戦に参加しますのでよろしく!くらいは言っておいた方がいいのかも知れない。単純にどんな魔物なのかも気になる。
「落ち着いたらご挨拶してみます。どなたがリーダーですか?」
「向こうにいる人と梟の中間みたいなのがそうだよ。名前はコルマだ。」
シェルドの示す先に、二足歩行する梟が見える。背は俺たちよりちょっと低いくらいだろうか。
「コルマさんですね、わかりました。後で伺ってみます。」
「あぁ、よろしく頼むよ。ではまた。」
俺たちは一通り食事を楽しんだ後、コルマの元へ向かった。
「魔法ギルドの方ですね?是非、座って下さい。」
一言挨拶すれば良いかなぐらいのつもりだったが、促されては仕方ない。俺たちは近くの席についた。
「今回は依頼を受けて下さりありがとうございます。ギルドの中でも危険な依頼だったのではないですか?」
「かなり危険な依頼ですよ。でも、ナンミ=ヴァルが倒されるところを見れるなら、と思って引き受けることにしたんです。護衛としてしっかり働きますよ!」
「頼もしいですね。」
カイルは雰囲気に当てられてすっかり調子づいている様だ。ダインがご機嫌で頷いているところを見るに、食事が相当気に入ったらしい。
「この魔物連合ってコルマさんが立ち上げたんですか?」
「私が言い出して、何体かが賛同してくれたんです。シェルドもその一体なんですよ。」
「呼んだかい?」
「あなたが古株だって話ですよ。」
「ああ、立ち上げの話かな?」
いつの間にか、シェルドが来ていた。尻尾で支える様に体を持ち上げて椅子の上に立つ。ワイングラスを持ったまま、器用なものだ。
「最初から目的は居場所を作ることだったんですか?」
「ええ、そうです。でも、私は人と共存できるような場所を目指しています。」
「共存?」
「ええ。魔物連合の中には魔物だけの国を、と考えるものもいますが、私は一緒に暮らせる場所を目指しているんです。」
「魔物だけの国が欲しいと思う方が自然な気がしますけど…襲われたくないとか?」
「そういった理由もありますが、そもそも居場所を作ろうと思うキッカケをくれたのは人だったんです。」
「それがドンジーさん?」
「いえ、名前も知らない旅の方です。我々がここに流れ着いて間もない頃、人と魔物の板挟みのような場所で、いつ霧散するか怯える私たちに優しくしてくれたんです。」
「すみません。霧散というのは?」
「ああ、魔物が死んでしまうことを私たちはそう呼んでいます。召喚型の魔法が発動と解除の時に光る様に消えたりするのをご存知ですか?」
「あー、見たことあります。」
東の国で見たヒダンの刀を思い出す。確かに、光を纏っていた。
「我々魔物は一定以上の傷を負うか、魔法を解除されてしまうと光になって消えてしまいます。それを霧散と呼んでいるんです。」
「なるほど。…そう言えば、魔物が再召喚された場合って記憶とかどうなるんですか?」
「全て無くなります。姿形は同じでも、以前召喚したのと全く同じ存在が現れます。ですから、我々は再召喚も死ぬことと同じだと考えています。」
「でも、霧散した後って魔物の世界?に帰るだけなんじゃ無いんですか?」
「これも不思議なのですが、魔物の世界を知るものはいないのです。ある程度、人と話せる知識を持って召喚されているのに、これまでの記憶が無い…ですから、霧散は死ぬことと変わりがないのです。」
傷を負ったら再召喚、というわけにはいかないらしい。今まで考えたことは無かったが、魔物にも死が存在するようだ。
「しかし、あの旅の人は何故こんな場所を訪れていたんだろうな?」
僅かに空きそうになった沈黙を埋めるように、シェルドが言う。
「確かに…また話せると良いですね。不思議と勇気が貰える人でしたし。おかげで私がやらなければならないと思えました。」
「ふーむ…確かに良い人ではあったが、それ以外の印象が残らない奇妙な人物だったな。」
「シェルド、客人の前で誰かを悪く言うものではありませんよ。」
「おっと、失敬。下手なことを言わない為にも、次はギルド諸君が普段どのような依頼をこなしているのか教えてもらえるかな?」
と言われても、俺の手持ちの話で派手なものはほとんど無い。少し迷った挙句、記憶に新しい北の国の一件をめんどくさそうな部分は神託のせいにしてカイルと補いながら話した。カイルが犯人を捕える為に空中に飛び出したシーンでは聞き耳を立てていた周りを巻き込んで大いに盛り上がり、想像出来るが故にダインは顔を引き攣らせ、ミナは完全にドン引きしていた。これ以上の盛り上がりは無いと判断した俺は、すっかり調子づいたカイルを半ば連れ帰るように決起会を後にした。




