光の戻り方
ギルドへ戻ってくる間、俺の呪文は消えたままだった。日に一度、確かめるごとに悲しみが増していく俺はカイルのどの話にも上の空だったようで、最後には雑談は全くしなくなった。ギルドへの報告が済んでから今日で3日、俺はいつまでデヤル参りを続けるのだろう。ルシエの依頼を達成したことにより、ひとまずまとまった金は手に入ったが、そろそろ身の振り方を決めなくてはならない。諦めきれないまま、今日も今日とて馬車で山の方まで来てしまう。呪文を唱えても何も起きないのだから、この移動にも価値は無い。試すにしても、明日からは家の近くにしよう。もはや剣の素振りをする場と化しているいつもの草むらに向けて呪文を唱える。
「デヤル。」
木陰で見てやっとわかる弱々しい白い光に包まれた左手から、青い光の塊が地面に放たれる。土煙が落ち着くまで、俺の表情は驚きで固まったままに違いない。色は明らかに違う。正確には明るい青一色ではなく、白がマーブル状に入り混じっていた。遠くから見れば、水色に見えたかもしれない。だが、それ以外は今までと同じ魔法だった。
「アハッ、ハハハ、ハーハッハッハ!!!」
俺は嬉しさに身を任せ、しばらく天を仰いで笑い続けた。
夕方、いるかもわからないのにギルドへ向かい、カイルを見つけた俺は、強引に夕食に引っ張って行った。
「つまり、ちょっとキレイになって戻ってきたんだよ!」
「マジ!?良かったな!」
カイルのシンプルな返しは、今の俺にとって最高の相槌だった。俺は久々に美味いチャーハンをかき込みながら、醒めない興奮を乗せて話し続ける。
「聖女様のお言葉を信じて良かった!まさに神託だな!」
「ホントにな!今のお前なら魔物だってへっちゃらだよな!」
「かもな!ぶち当てれば大抵なんとかなるし!」
「じゃあ、この依頼一緒に行けるな!いやー良かった良かった!」
「もう次の依頼見つけたのかよー、流石だな!」
浮かれたまま受け取った依頼書は、明らかに危険なものだった。魔物が蔓延る南の魔境。そこで長年、頂点に君臨していると言われる最強生物、ナンミ=ヴァルの討伐協力依頼だった。
「ギルドの連中も酷くてさー、聖女様のご指名を受けるようなやつと組むのは恐れ多いですーみたいな空気出してきて手頃なのは見つからねーし、受付もこんな依頼出してきて益々誰も組んでくれないし。そんな中、颯爽と俺と組んでくれるリオスには頭が上がらないね、ホント!」
「イヤイヤイヤイヤ、無理だろ、死ぬだろ!」
すっかり浮ついた気持ちを抜け出した俺の脳は拒否に向けて回り出す。
「ナンミ=ヴァルの話はお前も知ってるだろ!?国を滅ぼすような奴なんだぞ!?」
「まー落ち着けって。今回は協力依頼ってところが大事なんだよ。」
「協力して殺されに行くことの何が大事なんだよ!?」
「確かに南の国は滅んだ。でも、残党勢力はまだいるんだよ。そいつらはずっとナンミ=ヴァルを倒すために準備してきて、遂に一部の魔物と協力して攻撃体制を整えたんだ。」
「魔物と協力?」
「みんながみんな襲ってくるってわけじゃない。魔物の住処を作りたいって連中がいるんだってさ。魔物同士が戦うなら勝ち目はありそうだろ?」
「勝ち目があるなら依頼は来ないだろ?」
「念の為らしい。まともに挑んだ奴はいないんだ。ギルドの戦力を借りたいっていうのも当然じゃね?それにもし倒せたら、人と魔物が協力するとんでもない国が多分できる。ギルドとしても一枚噛んでおきたい。でも下手なやつを行かせるわけにもいかない。そこで俺たちの出番ってわけ!予備戦力として後方で物資の補給の手伝いかなんかしてれば、パイプ役として楽な依頼が舞い込んでくるようになるかも知れないぞ?」
「だとしてもリスク高すぎだろ。」
「最悪逃げ帰ってくれば良いじゃん?それに俺に借りもあるだろ?」
「借り?」
「北の国から戻ってくる時、俺に退屈な帰り道を提供した罪は重い!」
「それはノーカンだろ!?」
「いーや、この借りはキッチリ返してもらうぞ!」
「…マージでー?」
冷静に考えると、追い詰められているのは俺の方だ。元々、組んでくれるのはカイルぐらいしかいなかった上に、聖女のご指名の噂がある中で誰かと組めるとは思えない。カイルが行く以上、ついていかなければマトモな依頼は受けられないのだ。
「…俺たちだけで行くのか?」
「あと2人だけ当てがある。アイツらなら噂に流されたりしないからな!」
察しはつく。こうなったら全力で引き摺り込むしかない。
「いや、無理でしょ。死ぬでしょ。」
数日後、カイルの説明を受けたミナの反応は俺とほぼ同じだった。気持ちはわかるが、是非来てもらわないと困る。俺は想定通り、ダインに狙いを定める。
「お互い聖女からご指名があったって噂で迷惑してるだろ?ここは協力して噂が収まるまでの資金を稼がないか?」
「やはりそれが理由か…」
北の国の一件にはカーラン兄妹も呼ばれていた。変に敬遠されているのは同じはずだ。その事実を重く見ているのはダインの方に違いない。
「協力は確かにしたい。だが、ここまで危険な依頼を受ける必要は無いだろう?」
「でも他にマトモな依頼は受けられないと思うよ。」
「なぜだ?」
「ギルドが俺たちに行かせたがってるからだ。俺も何回か受付に顔を出したが碌なもんじゃなかったよ。」
ダインも心当たりがあるのだろう。椅子に寄りかかりながら腕を組んで息を大きく吐く。
「ナンミ=ヴァルの相手を直接することは無いんだな?」
「主戦力は向こうだからそれは無いはずだ。」
「主戦力扱いされたらどうする?」
「全力で逃げ帰る。」
カイルとは既に話して決めたことだ。報酬は欲しいが命を賭けるほどじゃない。逃げ帰ったという汚名はつくが、魔物の恐ろしいエピソードを収集して全力で話せば傷は浅くて済むはずだ。
「…ミナ。」
「…しょうがないかぁ。」
こうして、超消極的パーティーは南へ旅立つことが決定した。




