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聖女の依頼

 関所を抜けてすぐは、店が立ち並ぶ通りになっていた。店先にいるのは殆どが変異型の魔法使いのようで、翼の生えたカエルや、やけに細く見える豚の人もいる。ギルドの調査では人差し指の爪だけが青になる人などの微妙な魔法しか見たことがなかったので、完全な変身に見える姿にあちこち目を惹かれる。

 「あっちは耳だけ生えてるぞ!ああいうのはかわいいよなー。」

 「わかるー。」

 様々な変異型の魔法を観光しながら、俺たちは合流地点の教会を目指す。途中、ブルドックの人に道を尋ねると、一際背の高い建物を指しながら教えてくれた。予想通り、この国の中でも大きな教会が選ばれているようだ。


 シスターに取り次いでもらい、聖騎士団が守りを固める区画の小部屋に案内される。聖女様ともなると立派な部屋でしか会えないイメージだったが、なんというか普通の一室だった。待つこと数十分、ノックの後、2人の女性が入ってくる。1人は鎧を着ていることからお付きの護衛だろう。ということは、もう1人の白を基調としたローブを纏っているのが今回の依頼人だ。噂に聞いていたが、年は俺たちとそう変わらないように見える。俺たちは立ち上がり、挨拶をする。

 「お初にお目にかかります。魔法ギルドのリオスと、こちらがカイルです。ご依頼を受けて参りました。」

 「依頼を受けてくださり感謝いたします。どうぞお掛けください。」

 思いつく中で一番の丁寧な挨拶をしてみたが、合っているのだろうか?長引くとボロが出そうだ。席に着いた俺は会話の綱渡りを味わいながら早々に切り込むことにした。

 「早速ですが、内容について詳しくお聞かせいただけますか?」

 「その前に少々お2人のお顔を見せていただけますか?」

 「え?はぁ…」

 予想外の返答に困惑している間に、まじまじと見つめられる。カイルは最大限の爽やかな笑みで見つめ返していたが、俺と同様、目は合わなかったようだ。少し間を置いて聖女は口を開いた。

 「ヴェラ、席を外していただけますか?」

 「しかし…」

 「大丈夫です。信じて下さい。」

 「…かしこまりました。」

 ヴェラが去り、部屋には3人だけになった。顔を見ただけで信用されたとは考えづらい。噂では、聖女がその地位を確固たるものとしているのは神託を受けられるかららしい。ギルド員の俺からすれば魔法の一種としか思えない話だ。顔を見ることが条件の1つなのかも知れない。

 「改めまして、私はルシエです。依頼についてお話しする前に、私の生い立ちを聞いていただけますか?」

 「依頼と関係があるのでしょうか?」

 「はい。今回お願いしたいのは、ただの護衛ではありませんから。」

 「…わかりました、お聞きします。」

 生い立ちがどう関わるのかわからないが、不自然な依頼の謎が解けるかも知れない。ルシエは小声で話し始めた。

 「私は物心ついた頃から教会の孤児でした。親は知りませんが教会の皆という家族がおり、普通の子どもとして過ごしていました。何人かが自身の魔法を活かした職を見つけていく中、大多数の例に漏れず、私の魔法には使い所がありませんでした。発動すると、私にだけ見える落書きが人の顔に浮かぶのです。子どもの頃はシスターに怒られている時に使ったりしていましたが、何かに影響を与えるようなものではありませんでした。」

 さっき顔を見られたのは落書きされる為だったのだろうか。真剣に聞いてる自分がバカなのでは無いかと少し思う中、話しは続いていく。

 「特に取り柄の無い私は、このまま教会で学び、シスターとして暮らしていくべきかと考えていました。ある日、教会の蔵書の1つに古い文字について書かれたものを見つけ読み進めたところ、見覚えのある文字が多数書かれていたのです。私はどこで見たのかと考え、自身の魔法に思い至りました。私の落書きは、意味のある文字列だったと気づいたのです。何人かの落書きを読むことで自分の魔法が他人の魔法を見抜ける鑑定型だと理解しました。その時、思ってしまったのです。これは面白い、と。」

 まるで、面白いと思うことが罪のような言い方だ。教会に詳しくは無いが、楽しんではいけない、なんて教えがあるとは思えない。

 「古代文字の殆どを暗記した私は、次々に魔法を暴きました。噂でそういう魔法もあると聞いたから、と言いながら、自身の魔法を知らなかった人たちに、使い方を教えたのです。みんなを驚かせるのが楽しくて仕方ありませんでした。私が一通り暴き終えた後、噂を聞きつけた魔法ギルドの調査員がやってきて、魔法について虚偽の報告をしているのでは無いかと言ってきたのです。この頃には、精度の高い鑑定魔法がどんな理由で狙われるかわからない存在であることを知っていました。自身の魔法を隠し通したかった私は、苦し紛れに言ってしまったのです。“魔法では無い。これは神託です。"、と。虚偽を疑うものはひとまず去りましたが、今度は神託を信じるものが尋ねて来るようになりました。最初は、商人の方が助言を求めてやってきました。簡単な占い程度のつもりだったのだと思います。馴染みの無い商売の話に困惑した私は適当なお告げであしらったつもりだったのですが、何やら大儲けしたらしく、それをキッカケに噂が噂を呼び、教会に持ち上げられて今に至ります。」

 実は魔法でした、というのは予想通りだが、物凄い強運だ。だが、まだ依頼との繋がりは見えない。

 「ここまででお分かりの通り、神託など嘘っぱちです。出まかせです。にも関わらず、私はお告げを期待されています。鑑定魔法で乗り切れる領域はとっくに過ぎ去っています。話が大きくなり過ぎていつバレるか、バレたらどんな目に遭うかを考えない日はありません。どこか遠くへ逃げて人生をやり直したいのです。しかし、聖騎士団が周りをガチガチに固めています。頼れる人もいません。そんな時、先日お会いしたヒシトーガの騎士団のガリオン様から腕の立つ魔法ギルド員の話をお聞きしました。教会と関係が無く、ある程度信用のできる人たちと北の国の視察中に失踪する。これしか無いと思った私は教会を通してギルドに依頼を出したのです。」

 ここでガリオンが出てくるとは思わなかったが、不自然な依頼の理由はハッキリした。ガリオンが話したから俺たちが選ばれ、必要が無いから北の国の中でのみの護衛だったのだ。

 「改めてお願いします。私をここから逃がして下さい。」

 「お断りします。」

 「…」

 受けるわけが無かった。報酬も無いし、俺たちが逃がしたとなれば大罪人として追われかねない。ギルドにもいられなくなるだろう。

 「お金なら心配しないで下さい。教会からちょろまかすくらいわけはないです。散々私で稼いだんですからちょっとぐらいバチは当たりません。」

 「いや、そうじゃ無くてですね…」

 「もう嫌なんです。胃が痛いんです。先が見えないんです。見捨てないで下さい。」

 小声で捲し立てる姿は、もはや聖女と呼べるものでは無かった。ちょっと涙目だ。

 「落ち着いて考えて下さい。このまま逃げても聖騎士団が身命を賭して追いかけてきますよ?いつまで逃げ続けるつもりですか?それこそ先が見えません。」

 「…確かに。」

 素直だ。俺たちを信用した理由もガリオンから聞いたからぐらいしか無いし、そもそもポンコツなのかも知れない。こんなんで今までどうやって乗り切ってきたのだろう。しばらくの沈黙の後、ルシエは別の提案をしてきた。

 「今回は諦めます。その代わり、私とお友達になって下さい。今、事情を話せるのはあなたたちだけなんです。」

 一体、何の代わりなのだろう。言い方は引っかかるが、ルシエが困っていることは事実だ。聖女と友達になる、というのは悪いことでは無い。

 「それぐらいであれば構いませんよ。」

 一瞬、カイルと目を合わせると頷いたので、俺は提案を受け入れた。

 「良かったです。友達なら秘密も守ってくれますもんね!」

 この聖女の脳は今、全て保身のために稼働しているようだ。結局、表向きの通り、北の国に滞在している間の護衛として依頼を受けることになった。

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