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錆びついた思想

 そこには、様々な鉱石があった。実験に鋳造する過程が含まれているのか、鍛冶場で見るような炉が用意されている。だが、目につくほどの血の跡が残る一角が、鍛冶場との明確な違いを示していた。

 「君たちは、何の為に生きている?」

 突然、投げかけられた問いは、すぐに答えられるようなものでは無かった。なぜ今そんなことを聞く?さっきからずっと、話の繋がりが見えない。誰も答えずにいると、ヒダンは目を伏せるような仕草の後、そのまま語り始めた。

 「私が生まれた頃に魔法は無かった。10歳かそこらでこの刀を手にした時は、毎日夢中だったよ。」

 言いながら、ヒダンの胸の前辺りに集まった横長の青い光が形を成していく。現れた刀が、召喚型の魔法であることを示していた。目に見えてわかるほどに錆びついている。

 「これで、木を切るのが好きだった。何もかもを簡単に切り離す快感に取り憑かれた。だが、当時の私にはこれは重すぎてね。親も、危ないから使うなと言い出した。だが、すでに取り憑かれていた私は家にあったナイフで手当たり次第に切り付けて過ごした。刀は重すぎる。だがナイフでは切れない。何が違うのか。切れるナイフがあれば良いのに。その探求が自分の腕にまで及んだ頃、親に騎士団入りを勧められた。腕に傷のある子どもがそばに居ると、都合が悪かったんだろう。切っていいものを得た私は、すぐに名を上げていった。体も大きくなり、切れるナイフよりも、より切りやすい刀を求めるようになった。この実験場は、この刀に宿る切れる魔法が拡張出来ないかを試すための場所だ。」

 実験場の説明にしては長ったらしいが、この場所の意図はようやくわかった。だが、応接間での話と繋がりが無い。混乱がもたらす沈黙を意に介していないのか、ヒダンは話を続ける。

 「数年前に、親が死んだ。この国には珍しい山林地帯に住んでいたが、火事が起きてな。事故か、作為的かも有耶無耶な中、善良な親があっさり死んだと聞いて私は思いを新たにした。騎士団の善悪に従い、切っていいものだけを切り続けてきたが、切るべきで無いものも、私はずっと切りたかった。死ねば同じなら、この衝動を叶えて死にたい。望みを叶える為に全力を尽くすことが、人生の意義だと考え直したんだ。だが、叶えてはいけない望みもある。そんな時に、妙な奴と出会った。私の心を見抜き、大層なことを言ってきた。好きに生きられる世界を作ろう、と。下らない戯言としか思えなかったが、私が何の為に生きるのかは不思議と定まった。」

 何を話しているんだ?疑われているとわかっているはずだ。だとしたらこれは、弁明なのか?何かを自白しているようにも思えるが、ここまで聞いても明確なものを掴めなかった。

 「もう一度、聞こう。君たちは、何の為に生きている?」

 何がしたいのか、何が聞きたいのかはわからない。ただ、危機感だけは高まっていく。張り詰めた静寂を終わらせたのは、カイルだった。

 「切りたいものがあるから戦争起こしますって言ってるのか?だとしたら今は、お前を止める為に生きてやる!」

 カイルの答えは芯を捉えていない気がする。だが、俺には答えが浮かんでこない。ヒダンの表情が少し翳ったような気がした。

 「そうか、残念だ。」

 言い終わると、そのままヒダンは一気に距離を詰めてくる。カイルは剣も抜かないまま、迎え撃つように盾を前にして突進する。俺たちが剣を抜くのとカイルの上半身が斜めに滑り落ちるのは同時だった。思考が一瞬真っ白になる。止まる気配の無いヒダンの動きが、俺の思考を引き戻した。まだ切るつもりなのか?切り上げた姿勢から左に捻って溜めを作ったのを見て、横薙ぎを連想する。刀は途中で手放され、俺の方へ真っ直ぐ飛んでくる。

 「くおっ!」

 予想を超える速さの中距離攻撃は、俺の外套を裂き、そのまま実験場のドアに突き刺さる。勢いが落ちないまま鍔まで刺さったのを見たと思ったら、青い光が霧散するように立ち消える。視線を戻すと、刀を再度召喚したヒダンはミナに距離を詰めている。ミナの魔法は上への移動。あの速度で天井にぶつかればタダでは済まない。

 「デヤル!」

 ヒダンは唱えた俺を横目で見ると、すぐに後ろに距離を取った。放たれた光はミナの足元で弾ける。衝撃は全員を引き離すように吹き飛ばした。転がるように壁にぶつかった後、視線を上げると、ヒダンは蘇ったカイルを薄い笑みを浮かべながら見ていた。

 「再生の類か…」

 カイルの足元には、先ほど切り落ちた上半身が残っている。ここまで盛大に切られたカイルは初めて見たが、頭も含めて地面に転がっているのを見ると、とてもグロい。ひとまず全員が動ける状態なのを横目で確認しながら考える。あの刀は防ぐ手段が無い。カイルが惹きつけることは出来るかも知れないが、先ほどの咄嗟の判断を見ると、こちらの攻撃を当てるのは難しい。逃げるにしても、外の騎士団員は全員敵対する可能性が高い。国を出るまで逃げ続けるのは不可能だ。考えがまとまる前に、ヒダンが再びカイルに襲いかかる。先ほどのやり取りで真っ直ぐに欠けた盾を地面から拾い上げて投げつけると、カイルは剣を突き出すように構えて突進する。だが、ヒダンは側面に回り込んで盾と剣を同時に避けると、カイルの腕を切り落とす。視界を遮られた人間の咄嗟の判断とは思えないほど、しなやかな動きだった。

 (強すぎる…)

 丸腰となったカイルはそれでも向き直り、拳を振るう。が、ヒダンは顎を蹴り上げると、怯んだカイルを脳天から真っ二つに切り裂いた。だが突如、ヒダンの動きが止まる。俺も、ミナもダインも止まっていた。分たれたカイルの半身が、どちらも再生している。そして今、2人のカイルが膝をついた状態から立ち上がろうとしているからだ。この瞬間、動いているのはカイルたちだけだった。異変に気づいていないのか、カイルたちはヒダンを同時に殴る。

 「ぐっ…!」

 この怯みを逃さなかったダインは岩の板を生成する。しかし、直撃は避けたようで、体は僅かに打ち上がっただけだった。岩は天井にぶつかり、轟音をたてる。ここしか無い、と俺は左手を向けようとしたが、突然、体が重くなり膝をつく。この感覚は、重力操作だ。

 「ヒダン!何をしている!」

 声の主は、騎士団でも一際大柄に見える男だった。両手剣を片手に持ち、軽く跳ねるようにヒダンの元へ近づいていく。この部屋の中で、この男だけが軽くなったような動きをしていた。

 「申し訳ありません、ガリオン隊長。怪しい奴らを捕らえようとしたところ、手こずってしまいまして。」

 「ほう、お前が手こずるとはな。…装備無しでは厄介ということか。」

 まずい。今の俺たちは完全に騎士団と敵対している。このままでは、どんな目に遭うかわからない。だが、この魔法から抜け出す方法が思いつかない。範囲も不明だ。

 「こいつらは俺が預かろう。都市部は第1連隊の管轄だからな。」

 「…わかりました。お願いします。」

 「抵抗するなよ!貴様ら!」

 こうなっては従う他ない。俺たちは順に牢屋に連行された。


 意外にも全員が同じ牢に入れられた。装備もそのまま、手錠の類も無い。逃げると思っていないのか、逃げられないと思っているのだろうか。

 「何か服着なよ、カイルども。」

 「「全部切られたんだよ!」」

 「ハモるな、気持ち悪い!」

 ミナまで一緒だ。犯罪者扱いの割には高待遇に思える。今すぐ出来ることは何も無いので、2番目に重要な件について考えてみる。

 「で、どうやって増えたんだ?」

 「「わからん!」」

 ああ、うるせー。1人増えてハモってるだけで何でこんなに鬱陶しいんだろう。

 「あの時、真っ二つにされてたよな。魔法まで真っ二つになったとか?」

 「魔法がサービスしてくれたんじゃね?どう思う、右カイル?」

 「迷った挙句、どっちも治してくれたんだと思うぜ、左カイル!」

 何が楽しいのか、牢屋に入った同じ顔の男たちは素っ裸のまま笑い合っている。まぁ本人がその程度の認識なら、原因はわからないままだろう。元々、切られた時にどっちが再生するのかの基準も謎だし、研究部門でも確かなことは言えなさそうだ。魔法の神秘を感じていると、靴音が近づいて来た。見ると、先ほど俺たちをあっさり制圧した大柄な男だった。あの時の会話から察するに、第1連隊隊長のガリオン、らしい。騎士団のことはよく知らないが、部隊に上下があるならヒダンよりも上ということになる。

 「ずいぶん賑やかだな。」

 「こちらも混乱しているもので…」

 「まぁいい。お前たちに聞きたいことがある。」

 ここでの返答次第で、俺たちが無事に帰れるかどうかが決まる、とは思うが、ヒダンが状況を説明しているだろうことを踏まえると、俺たちは正直に答えるしかない。真っ向から食い違うとしても、襲いかかってきたのがヒダンであることを必死に訴えよう。

 「ヒダンは独立派に情報を流していたのか?」

 「え?」

 てっきり、なぜ暴れたのかとか、そう言ったことを聞かれると思っていたので面食らった。俺たちの行動が依頼内容と関係していると考えているようだ。質問の内容から考えて、騎士団内部にはヒダンを疑う声もあるのかも知れない。

 「俺たちも確かな情報は掴めていません。ただ、問い詰めた結果、あの場所で襲われたんです。」

 「やりとりを詳しく話せ。」

 俺たちはそれぞれの話を補い合いながらヒダンとのやりとりを伝えた。聞き終えたガリオンはしばらく考え込んだ後、口を開いた。

 「理解はした。だが、お前たちの話だけではヒダンは裏切り者にはならん。確かなのは、お互い誰も死んで無いということだ。このまま大人しくギルドに帰って何も無かったことにするというなら、ここから出してやる。」

 つまり、ギルドに報告せず、この件から手を引け、ということだ。裏切り者にならない、という言い方から、証拠無しでは動けない窮屈さが滲んでいる。お互い騒いでも得るものは無いと考えているようだ。カイルたちは少し嫌そうな顔をしているが、この提案を受けなければ帰ることも出来ない。

 「わかりました。俺たちは依頼を達成したから帰る。それだけです。」

 「いいだろう。しばらくこっちには来ないことだな。」

 鍵の開く音に安堵する。刺激しなければ、何とか無事に帰れそうだ。

 「あ、そう言えば、俺2人に増えたんですけど関所通れます?あと、服買って来てもらう間ここにいても良いですか?リオス、買って来て!2人分!」

 「……」

 ガリオンが手配をしてくれている間に俺が服を買いに行き、無事全員で詰所を後にした。ガリオンの気が変わらなくて本当に良かった。


 帰りの馬車で、カイルたちはずっと喋っていたが、ギルド近くの街道に出る頃には静かになっていた。今後どうするかは定まったのだろうか。俺は揺られながらヒダンの問いについて考えていたが、答えを得られていない。

 「なぁ、カイル。」

 「「なんだ?」」

 もうハモりにも慣れてしまった俺は、突っかかることなく投げかける。

 「ヒダンが言ってた、何の為に生きるのかってやつ、あれどう思う?」

 「どうって言われてもなー。楽しく過ごす為に生きてるに決まってるくね?」

 「わかるー。」

 あの言葉に引っかかっているのは俺だけのようだ。何の為に生きるのか。俺は、答えられなかった。その事実を無視出来ずにいる。まるで、自分がただ生き延びているだけの様な気がしてくる。ヒダンのように、何かに取り憑かれるべきなのかはわからない。ただ、この問いの答えを探さなければならないと思えてならない。

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