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実験場へ

 日差しの強さが増す中、俺たちは立ち止まることなく目的の騎士団駐屯地まで辿り着けた。歩きながら様々な疑問が湧き上がったが、疲れと暑さが答えを出す前に思考を絡めとり沈んでゆく。まとまりが無いまま、俺たちは騎士団員にオアシスでの襲撃を報告した。

 「また盗賊か…わかった、後で上にも報告して確認するよ。ひとまず大きな被害が無くて良かった。」

 積荷の受け取りを担当しているのは若い男だった。暑さのせいだろう、辺りに鎧を着込んでいる人はほとんどいない。

 「この積荷が武器であることは知っていましたか?」

 「え?もちろん。知らずに持ってきたの?」

 そう言われると、聞かなかった俺たちに問題があったような気がする。

 「軍備品としか…」

 「そうなんだ。まぁ確かに隊長が隠してもおかしくないけどね。盗賊に情報が漏れたら今回みたいなことになるし。」

 「やはり、軍備品の輸送の情報は隠しているんですね?」

 「武器なんかはそうだね。盗られたら一大事だし。護衛が君たちなのも、盗賊を欺く策の1つだろうって言われてるよ。上手くいかなかったみたいだけど。」

 「…ちょっとこの地図を見てもらえますか?盗賊が持っていたものなんですけど、メモがピンポイント過ぎるんです。」

 俺は預かっていた盗賊の地図を渡し、ヒダン隊長から預かっていた地図を並べるように広げて見せる。

 「…前にもあったんだよね、こういうの。やっぱりおかしいね。この地図は預からせてもらうよ。報告に使いたい。」

 「はい。お願いします。」

 反応から察するに情報漏洩の疑いは前からあったようだ。明言しないところを見ると、騎士団内部の疑いが強いのかも知れない。

 「ただの盗賊にしては色々と厄介ですね。」

 「…ここだけの話なんだけどさ。ただの盗賊じゃ無さそうなんだよね。」

 「と言うと?」

 「噂なんだけど、砂漠の独立を目指す奴らがいるらしくてね。盗賊と結びつける人が多いんだ。こんなことあんまり言いたく無いけど、しばらくはこの辺に近づかない方が良いよ。」


 駐屯地を出た後は、近くの町の雑貨屋で新たな積荷が馬車に載せられた。見たことの無い食器やら何やらであることを確認し、一息つく。危険が減ったと思えることが、今はありがたかった。帰りはあのオアシスを避けたかったので、大きな岩を中継地点とするルートに全員が賛成した。万が一の時、水の補給は出来ないが、直線的なルートになるので余裕を持って辿り着ける見込みだ。


 「で、今回の依頼どう思う?」

 夜、御者たちが寝静まってから、カイルは投げかけた。焚き火を囲んだ俺たちは、ゆらゆらと照らされている。

 「護衛は建前で、裏切り者の炙り出しが狙いだろうな。騎士団から漏れてると踏んでるから、ギルドに依頼したんだろう。今頃、あの隊長さんは調査で忙しくしてるんじゃないか?」

 俺もダインと同意見だ。裏切り者がいるのであればギルドに依頼したことも、わざわざ隊長が説明していたことにも合点がいく。

 「じゃあ、砂漠の独立についてはどうだ?」

 「…それは依頼とは無関係だろう。」

 「でも気にならないか?ただの盗賊じゃないってのは確かだったろ?でも、独立を目指すのに騎士団の武器を盗みますって変だろ?町も食べるものに困ってるって雰囲気じゃ無かったし、いきなりそうはならないはずだ。」

 「それはそうかも知れないが…」

 「裏切り者は情報を流して、独立派を煽ってると思う。狙いはわかんねーけど。」

 「狙いねぇ…」

 ダインとミナはもう取り合っていないようだが、俺は少し興味がある。ただ独立を目指すにしてはやり方が過激というのには同感だ。騎士団の注意が砂漠に向いているのは確かだが、それで得をする奴がいるのだろうか。

 「戦争が起きて欲しい奴がいるのかもな。」

 考えてみたが、何も思いつかない。俺は切り上げるつもりで大袈裟な可能性を口にした。

 「戦争が起きたら、あの隊長も得するんじゃね?」

 「え?まーそうかもな。」

 カイルは黙り込む。馬鹿げたことを言い出す予感がするが、待つことにした。無理に会話を切り上げても、考え続けるに決まってる。

 「隊長、怪しくね?」

 「その程度の怪しさだったら全員一緒だろ。」

 「報告の時さ、カマかけてみねー?」

 「やめろ。首を突っ込むようなことじゃない。」

 真っ先に反対を表明したのは、意外にもダインだった。ちゃんと聞いてはいたようだ。

 「でもさ、戦争になるかも知れないんだぜ?このまま帰って戦争起きたら、やりきれねーよ。」

 「危険を冒すほどのことじゃない。」

 「ミナは?」

 「カマかけじゃ無いけど、なんで独立派の話をしてくれなかったのかは聞いても良いと思う。隊長なら知ってたはずでしょ?」

 賛成を得られていないカイルはこちらに目を向ける。

 「…盗賊がヒダンの名前を口にしていた、ぐらいならやってみるべきだと思う。戦争はともかく、東の国に行ったギルド員が次々死亡する、なんてことになったら嫌だからな。」

 「…それは嫌だね、ダイン。」

 「…わかった、任せる。」

 明日の報告の準備が整った俺たちは、火の番を替わりながら夜を過ごした。


 出発地点であった関所が見えた時はホッとした。戦闘が前提であることは覚悟してきていたが、思いの外、頭を使う機会が多かった気がする。そう思うのは、慣れていないからだけでは無いはずだ。関所を抜けて都市部に入った俺たちは御者と別れ、予定通り依頼の報告に向かう。途中、何度か話をしたはずだが、騎士団の詰所に入る頃には覚えていなかった。


 前回と同じ応接間に通された俺たちを迎えたのは、やはりヒダンだった。カイルは依頼が完了したことを告げ、サインをもらう。ここまでは、通常の流れだ。

 「そういえば退治した連中、なんか変なこと口走ってたんですよ。」

 「どんなことだ。」

 「砂漠の独立がどーのこーのって、何か知ってますか?」

 「…最近、砂漠地帯の独立を目指す動きがある。それに感化されたのかも知れないな。」

 「盗賊と独立派が繋がっている可能性があるのは知ってたんですよね?なぜ教えてくれなかったんですか?」

 「確証の無い情報は混乱を招く。これが騎士団の考え方だ。君たちへの配慮に欠けていたことについては謝るが、騎士団員として正しい対応だったと思っている。」

 ヒダンの答えに揺らぎは無い。独立という言葉が出ても、態度に変化は見られない。

 「盗賊の持っていた地図には俺たちの中継地点に関する情報がピンポイントで記載されていました。情報を流したやつが誰か問い質したら、あなたの名前が出てきました。これはどう言うことですか?」

 「隊長である私が情報を流したと考えているのか?確かに、立場上可能であるのは認めるが、そのようなことはしていない。私の名前を口走ったのは聞き馴染みがあったからだろう。第2連隊の担当区域は砂漠地帯だからな。私の噂をするものも多い。」

 騎士団員としての自覚が節度ある態度を守っているのか、自身が疑われているのに動揺を感じ取れない。真意を掴めていないと思うが、話の筋は通っているしここまでかな、と思ったところでカイルはさらに続けた。

 「独立派の考え方も過激すぎる。いきなり盗もうなんて思わないはずです。焚き付けて得をする誰かがいると思いませんか?」

 そんなことまで言うとは聞いてない、と思ったが言ってしまった以上、どうしようもない。ヒダンは表情を崩さなかったが、ついに溜め息をついた。

 「この依頼だけでここまで内情を掴むとはな。魔法ギルドというのは思った以上に優秀らしい。ついてこい。実験場を見せてやる。」

 なぜ急に実験場の案内が始まるのか。掴みきれてはいなかったが、ヒダンにとって俺たちが“ただのギルド員"ではなくなったことは確かなようだ。明確に疑いを突きつけた以上、このまま引き下がることは出来ない。俺たちはヒダンに続くように応接間を後にした。

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