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#幼馴染、お前もか


「……っはぁ。行っちゃった、か……」


 教室から手を繋いで出て行ったショウちゃん……瀬羽とあの暴言女、姫宮の背中が階段の角に消えるまで、私は柱の影から見つめていた。


 瀬羽翔兎と私、早河遥は、物心が付いた頃からの幼馴染だ。家も隣同士で、小学生くらいまでは家族ぐるみの付き合いもあった。中学に上がっても私と彼の関係は変わらず、同い年だけど仲の良い兄妹のように、一緒に過ごしていた。……そう。今の彼と、彼女のように、いつも一緒に。

 瀬羽と手を繋いだのも、一緒に登校したのも、何なら一緒にお風呂に入ったのだって、私の方が先だった。


 でも、今彼の隣に居るのは、私じゃない。


「っっ〜〜〜〜!!」

 

 私は無駄に大きく育った自分の胸を掻き抱くように身を縮め、その場にしゃがみ込んだ。

 瀬羽が、私のたった一人の幼馴染で、お兄ちゃんみたいだった人が、他の女に身も心奪われて私の方を見向きもしない。

 そう考えただけで、背筋を氷で撫でられたような怖気と、お腹の底から全身が燃え上がってしまうような熱に襲われる。

 ぐちゃぐちゃの感情と震える身体を必死で抑え付けるように、制服が皺になるほど強く二の腕に爪を食い込ませた。


「はぁっ、はぁっ………」


 ……こんなのおかしいって、自分でも分かってる。認めたくない。直視したくない。

 なのに、あの二人が寄り添う姿から、目が離せない。


「………自分から距離取った癖に、未練がましいよね。ほんと」

「いやぁ〜、そうゆう真っ当な青春とはちょぉっと違うんじゃねぇかなぁ?」

「え?」

「おっす」

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

ん? んん〜?


「っっっっっっ!? なっ!? ちょっ、あっ、゛あああああああああああああああっ!?」

「どうどう〜。まあ無理だろうけど、安心してくれや。別に誰にも言うつもりはねぇからよ。おたくが噛ませ犬系王道幼馴染ヒロインの皮を被った激ヤバ女だって事はさ」

「さ、猿渡っっ!? な、何でアンタが!?」

「俺の評価はスルーの方向ですかい……まあ良いけど。いやいや何でも何も、おたくの大好きなあのバカップルとついさっきまで教室で話してたからなぁ。てか、見てたんだろ?」

「うっ………」


 しまった、こいつの存在を完全に忘れてた……。

 瀬羽が職員室に呼び出されたから、仕方なく待ってる姫宮の方を見張ってたら、こいつが戻って来て絡み始めたんだった……。席が近いのもあるけど、二人を見てると妙に視界に入って来るのよね。そのくせガタイでかいのに存在感はやたら薄いし。


「あ、あんた、まさかコレをネタに私を強請って!?」

「そんな薄い本の伝統芸能みたいなことしねぇよ。と言うか、そうゆうのはおたくの存在だけでもう十分なんだわ。流石にくどい」

「じゃ、じゃあ、何で黙っててくれるのよ……。あんた、人の良さそうな顔してるけどお腹の中は真っ黒でしょ」

「っ! ……へぇ。意外だねぇ。おたくは瀬羽の兄さんにしか興味無いと思ってたんだが」

「べ、別にそんなこと無いし! ただ、瀬羽があんたには露骨に冷たく接してるから、利用価値と嫌悪感を天秤に掛けた時に後者の方が勝ってるんだろうなって思っただけ」

「おおう……。おたくもお姫ちゃんに負けず劣らずストレートだねぇ。流石に第三者の視点で嫌悪感とまで言われちゃ傷付くぜ」


「嘘ばっかり。ヘラヘラして……。で、結局何で黙っててくれるのよ。あんた、私とあの暴言女が揉めるのいつも面白がってるじゃない。もっと拗らせる絶好のネタが手に入ったんじゃないの?」

「ふ〜ん? その辺のことは思ったより冷静に自己分析出来てんだなぁ。ま、否定はしねぇけどよ。“だからこそ”、だな。俺の口から言うより、放っといた方が面白ぇことになりそうだから、大人しく黙って見守らせてもらうさ」

「思ってた以上にマジで最悪ねアンタ……」


 瀬羽の有って無いような低過ぎる『友達ハードル』を越えられないなんて、どんな奴かと思ってたけど……ある意味、一番知られたくない奴に私の裏の顔を見せてしまったかもしれない。


「俺は瀬羽の兄さんの親友だからな。愉快なアイツの人生に、余計な手出しなんてしないさ」

「愉快なのはあんたにとって、でしょ。………ま、確かに最近は、前より楽しそうだけどね」

 

 そう。自己中心的で、他人に興味が無くて、残酷なくらい優しい私の幼馴染は、あの女と出会ってからずっと楽しそうだ。


 私の、私だけのお兄ちゃんだった頃より、ずっと。


「………なるほど。こっちも大概、手遅れって訳かい。全くあの変態は、どんだけ被害者を増やすのかねぇ」

「え……?」

「鏡、見てみな」


 呆れたように肩を竦めてそう言われた私は、ポケットから手鏡を取り出して、自分の顔を見た。



 頬を蒸気させ、口元をヒクヒクと歪めている、気持ちの悪い女の顔を。





今話もお読み頂きありがとうございました。

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